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16.山岳越え [AC30第2部カルディアストーン]

PCXは速度を上げ、ジオフロントの入口へ戻り、キラを呼んだ。
「キラ様、ガスが近づいています。ここは危険です。すぐに逃げましょう。」
下のチャンバーに居たキラは慌てて、這い出してきた。
「迷っている場合ではありません。ガスがここへ届く前に、一気に上昇しましょう。」
「判った。」
キラはアラミーラに乗ると、一気に上昇する。
PCXはガスが迫ってくる様子を監視しながら、キラの後を追うように上昇する。
「もっと早く!」
白いガスがすでに足元まで迫っている。予想以上の勢いだった。千メートルほど上昇すると、ようやくガスは達しない高さとなった。ふと足元を見ると、みえる範囲すべてに白いガスが立ち込めている。ジオフロントの先人類もこうしたガスの噴出で滅んだのだとキラは実感した。自然の猛威は人間の科学力など叶いはしないと痛感させられた。
千メートル程度では、気温はまだ50℃近くに達している。キラは頭がぼんやりとし始めていた。
「キラ様、しっかりしてください!」
PCXの言葉でキラは正気を取り戻した。
「もう少し上昇しましょう。」
キラとPCXはさらに上昇する。崖はまだ上まで続いている。2千メートルを超えると、植物がめっきりと減った。横に屏風のようにそそり立つ崖は、荒い岩肌ばかりになってきた。気温はようやく40℃ほどに下がり、キラもぐっと楽になった。
「少し休みましょう。」
PCXはそう言うと、崖の一部が大きく窪んでいる場所を見つけ、降り立った。
気づくと、もう日が暮れる。遠くに広がる海が少し光っている。
夢中でここまで飛んできた。どれほどの時間が経ったのか、全く判らない。ただ、全身がひどく疲れてしまっていて、キラはくぼみに降り立つと同時に、しゃがみ込んでしまった。
「今日はここで朝まで休みましょう。これをどうぞ。」
PCXはアランの遺品を詰めたリュックを開き、中から小さな包みを取り出した。
「ドラコのジャーキーです。栄養を取るには充分でしょう。それと、水です。」
握り拳大の塊を差し出す。PCXは、キラが悲しみに包まれ動けなくなっていた間に、ドラコの肉を切り出し、乾燥させて携帯食を作っていたのだった。
日が落ちると、PCXは、テント状に変形して、キラを包み込んだ。キラはその中でぐっすりと眠った。
翌日からしばらくは、岩だらけの山岳地帯を進んだ。時折、大きく裂けるように深い谷が広がり、はるか眼下に青い川の流れや深い森が見えた。とにかく、北をめざし飛んだ。
気温が次第に上がってくると、さらに高度を上げて飛んだ。3千メートルを超えると、極端に空気が薄くなってきた。キラの疲労は極度に高まり、1週間ほど飛んだ頃には、時速5㎞程度の速度でないと体を保っていられなくなっていた。1時間ほど飛んでは休息を取るようになる。
出発して20日ほどを過ぎても、ようやく千キロほど北上したにすぎなかった。
夜が明けて、PCXがキラを起こそうとしたが、キラは極端に疲れ、起き上がる事が出来なくなっていた。まだ、道のりは半分ほども来ていない。幸い、気温は20℃を少し超える程度で、過ごしやすい状態だった。
「キラ様、しばらくここで養生していきましょう。これ以上、無理はできません。」
「いや・・大丈夫だ・・・」
そう言ってキラは何とか起き上がろうとしたが全身に力が入らなかった。
「無理です。まだまだ道のりは長いのです。体力を取り戻さないとこれ以上先へは進めません。」
PCXは、この先に立ちはだかる五千メートルを超える山岳を察知していた。直線距離ではその山岳を超えるのが近道である。迂回すれば、3倍以上の距離になるだろう。だが、キラの体力が持たないのは明らかだった。
「ここなら雨露がしのげます。気温も高くありません。1週間も養生すれば、また進めます。私は、食糧の調達に行って来ます。ゆっくり休んでいてください。」
PCXはキラを残し、周辺で食糧になるものはないか探しに出かけた。
一人残ったキラは、自身の不甲斐なさに悔し涙を流している。アランやハンク、プリムの顔が脳裏に過る。


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