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29.一縷の望み [AC30第2部カルディアストーン]

「ガウラ、気が付いたのか?体はどう?まだ、辛いんだろう?」
キラは、ガウラのすっかり痩せ細った手を握って訊いた。
「・・もう・・大丈夫よ・・。」
ガウラの声は弱々しかったが、キラの顔を見て安心した表情を浮かべていた。
しかし、脇に居るPCXを見て、急に毛布で顔を覆った。惨劇を見たガウラはPCXの姿に怯えたのだった。
「PCX、ライフエリアに戻って、何か栄養になるものを持ってきてくれないか?フードブロックに行けば、何かあるだろう。フィリクスの実でもあればいいんだが・・・」
キラは、ガウラの様子に気づいて、PCXをいったん遠ざける事にした。
「はい。」
PCXもすぐにキラの言葉の意味を理解し、出て行った。
「ガウラ、PCXはもう居ない。大丈夫だ。」
キラが言うと、ガウラは毛布の隙間から少し周囲の様子を確認して、ゆっくりと顔を見せた。
「本当に・・本当に・・怖かった・・PCXがたくさん現れたのよ。・・人間は傷つけないと聞いていたのに・・まるで獲物を狩るように・・・・信じられなかった。・・・。」
「もう良いんだ。エリックから聞いたよ。思い出さない方が良い。・・それより、諦めちゃダメって言ったけど・・。」
キラが訊く。
「そう・・きっとまだ、ハンクたちは生きてるわ。PCXがやってきた時、抵抗しなかった者は、連れて行かれたの。ただ闇雲に殺戮しに来たわけではないようだった。だから、あの・・キラの・・偽物について行った者たちはきっとまだ生かされているはずよ。理由は判らないけど・・」
「じゃあ、海に浮かぶあの島に皆生きているかもしれないって・・」
「ええ、きっとそうよ。」
「迎えに行かなくちゃ・・。僕が戻った事を知れば、きっと皆もここへ戻ろうと考えるはずだ。」
「ええ・・でも、自分の意志で戻れるかどうか・・・抵抗した者は命を奪われたのだから・・・。」
キラは、沈黙し、天井を見上げて、思案した。
「PCXなら、島の様子も知っているだろうし・・理由も知っているかもしれない。」
「駄目よ!ここを襲ったのもPCXなのよ。きっと、裏切るに違いないわ。」
ガウラにしてみれば、PCXは全て同じアンドロイドであり、ジオフロントの人々を殺戮したおぞましい存在に違いなかった。そして、PCXにジオフロントを襲撃するよう指令を出した張本人がいる事になる。だが、PCXの協力なしで、島へ向かう事は困難な事だった。
「あの・・キラ様・・、カルディアストーンはどこに?」
傍に控えていたエリックが唐突に言葉を発した。
その言葉に、キラは思いなおすように顔を上げた。
「ここにある。おそらく使えると思う。」
キラは、カルディアストーンを収納したBOXを、エリックのマルチハンドの先に差し出した。ゆっくりとマルチハンドが伸びて、BOXを掴む。
「正常に使えるか、分析します。」
エリックはそう言うと、くるりと方向転換して、コアブロックへ向かった。
「ジオフロントが復活するのね・・。」
「ああ・・。」
小さく呟いたガウラの横で、キラはため息のように答えた。そして、しばらく沈黙が続いた。
キラは、連れ去られたハンクたちを連れ戻す術をじっと考えていた。島に向かい連れ戻すほかないのだが、無事に戻れる保証はない。そうなれば、ガウラや母たちだけがジオフロントに残されてしまうことになる。カルディアストーンを持ち帰った事にどれほどの意味があるというのか、復活したジオフロントに僅かな人々が残るだけなのである。出口のない思いがぐるぐると渦を巻いて胸を締め付けている。

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