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3‐2 PCXの願い [AC30 第3部オーシャンフロント]

波は穏やかで、ライブカプセルの揺れは心地良かった。それと、一日中、高度1000メートルを飛び続けたことで、体の負担も大きかった。キラはすぐに深い眠りに落ちていた。
翌日は夜明けとともに、飛び始めた。熱波はそれほど強くなく、高度も昨日よりも低い。ただ、目に入るものは海と空ばかりで、時々、意識が虚ろになる。
PCXはそんなキラの様子に気づき、こまめに、休憩を取る提案をした。しかし、先を急ぎたいキラはなかなか受け入れようとしなかった。
「オーシャンフロントの移動速度よりも我々のほうがはるかに速いのです。すぐに追いつきます。」
PCXがそういったことで、キラもようやく受け入れ、休憩を取ることにした。

ライブカプセルの中で、しばし休憩した。
「キラ様、食事はどうされていますか?」
「ドラコの干し肉がある。飛びながらも摂れるから大丈夫だよ。君はどうだい?」
「私には必要ありません。」
「いや・・何か、影響は受けていないかと思って・・。」
「今のところ異常はありません。おそらく、電波エリアはそれほど大きくないのでしょう。」
「まだ遠いということか・・・。」
キラは少しがっかりした様子だった。
「そろそろ、オーシャンフロントは移動をやめるころでしょう。あと数日中には見えるはずです。」
キラを元気づけるようにPCXが言う。
「そうか・・・。」
キラは袋から、フィリスクの実のフレークを一つまみして口に入れる。
「キラ様、一つ、お願いがあります。私に名前を付けていただけませんか?」
「名前?・・そうか・・そうだな。」
「はい。PCXというのはアンドロイドの機種名ですから・・。」
「そうか・・・・どんな名前がいいんだろうなあ?」
キラは、ライブカプセルの中でごろんと横になり、ぼんやりと呟いた。そして、ジオフロントで初めてPCXの姿を見たときのことを思い出していた。
「そうだ!」
急に起き上がると、キラが言った。
「フォルティア。・・どうだい?」
「フォルティア?」
「ああ、そうだ。君の姿を見たとき、誰かが叫んだんだ。フォルティア・ミーラって。」
「フォルティア・ミーラ?」
「先人類の古い言葉みたいなんだけど・・神秘の力・・魔法みたいな意味だったと思う。まさに君の能力は魔法みたいだからね。どうだい?」
「フォルティア・・いいですね。ぜひ、そうしてください。」
「何だか・・慣れないけどね。」
旅の途中のささやかな憩いの時間が過ぎていた。

その日は、夕暮れまで北東を目指し飛んだ。
翌日になると、北緯60度を超えていた。すでに気温は30℃以下に下がり、海面近くを飛べるほどになっていた。
「PCX・・・いや、フォ・・フォルティア、あとどれくらいかな?」
まだ慣れない呼び方をして、キラが訊く。
「もう、近くまで来ているはずです。ただ、この辺りは潮流が激しいようなので、どこか、穏やかな湾や島々の間に入り込んでいるかも知れません。」
キラは、PCXの言葉に、オーシャンフロントの姿が見えないかと周囲を注意深く見てみた。しかし、周囲に島影はなかった。


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