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3‐11 創造主の力 [AC30 第3部オーシャンフロント]

「そろそろお休みください。もうお休みになる時間です。」
彗星衝突で地軸の傾きが大きくなり、夏の季節には、北緯60度を超える地域では白夜となる。
もっとも、地中にあるジオフロントでは、「太陽が沈むことで夜になる」という観念はないのだが、キラは長く旅をしたこともあり、日暮れを知っていた。
「まだ、外は明るい。もう夜なのですか?」とキラが訊いた。
「日が沈んでいる時間はわずかです。」
すると、目の前の床が開き、下から大きな水槽のようなものが現れた。
「初めてご覧になるのでしょうね。ウォーターベッドです。この中に体を浮かべて眠るのです。さあどうぞ。」
ジオフロントでは、水は貴重品だった。水の中に体を浮かべることなど考えられなかった。キラは恐る恐る足を入れる。体温と同じほどの温かさだ。少しねっとりした感じがする。そのまま、ゆっくりと下半身を浸けていくとふわりと体が浮かび、顔だけが水面から出る。ほのかに甘い香りがする。白い通路を通った時、傍に居た女性たちと同じ香りだった。
ステラは、キラがベッドに入ったのを見届けると、静かに部屋を出て行った。
不思議な感覚に包まれたキラを、次第に眠気が襲い、一気に深い眠りに落ちた。
ウォーターベッドには、体の清浄機能もあり、眠っている間に体じゅう綺麗になっていた。
キラは清々しい気持ちで目を覚ました。目覚めるとステラがすでにソファーに座っていて、朝食の支度も出来ていた。昨日と同様に見たこともない料理が並んでいる。
キラは落ち着いて食事を摂ったあと、ガラスの向こうに広がる風景を眺めながら言った。
「ステラさんは、ずっと一人でここに居て、何をしているのですか?」
「主の御意思に沿って、種の偉大なる功績を学んでおります。」
「偉大なる功績?」
「主は、彗星衝突をいち早く察知し、人類を救う・・いえ、地球上の命を救うために偉大なる力を発揮され、オーシャンフロントを作られました。先人類は、主に倣って、ジオフロントなるものを地中に作りましたが、ほとんどが破壊され命が失われました。浅はかな先人類には、主のような偉大なる力などなかったのです。」
キラはカルディアストーンを求め大陸を旅し手、いくつかの無残に破壊されたジオフロントを見ていた。自分たちの住んでいたジオフロントも瀕死の状態だった。確かに、このオーシャンフロントは特別なものであった。だが、ジオフロントでユービックを通じて知った事実とは少し違っていた。
彗星衝突が発見された後、先人類は総力を挙げ、彗星の衝突回避に取り組み、破壊は成功したものの、一部の衝突は避けられない状況となった。そのために、世界中にジオフロントやオーシャンフロントが建設されたはずだ。ここだけが特別なわけではないはずだった。
「主はほかにどのような力をお持ちなのですか?」
キラの質問にステラの目が輝いた。
「主は永遠の命を産み出されたのです。」
「永遠の命?」
「それこそが主の最も偉大なる力なのです。」
「アンドロイドの事ですか?」
キラの質問にステラは厳しい表情を見せた。
「何をおっしゃるの?あれは、先人類の産み出したロボットという技術に、ほんの少し改良を加えられたに過ぎません。あのようなものは主にとっては何の役にも立たないものです。」
「では・・永遠の命とはなんですか?」
ステラは少し困った表情を浮かべた。そして、すっと自らの手をキラの前に突き出した。
「この体は、命の入れ物に過ぎません。そして、体は時とともに滅びます。それは、生きとし生けるものの定めです。しかし、その体が滅びなければ命は永遠の時を得ることができます。決して滅ぶことのない体を主は作り出されたのです。」
「そんな・・決して滅びることのない体など・・・。」
「主に謁見することです。主のお姿をご覧になれば、あなたにもわかります。」

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