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3‐10 ステラ [AC30 第3部オーシャンフロント]

「ありがとう。」
キラが心から感謝の言葉を発した。すると、その女性は少し戸惑いの表情を見せた。
「なぜ、礼を言うのです?」
「いや・・これほどのものを用意してもらったから・・・。」
「主のご指示に従っただけです。それに、先ほどの飲み物や食事は、すべてこのカルディア・タワーが用意したものです。」
少し妙な言い回しだった。
「ここはカルディア・タワーというんですか?」
「そうです。このオーシャンフロントの全てをコントロールしています。」
女性は、キラの近くに直立したまま、表情は絶えず笑みを浮かべ、淡々と答えた。
「あの・・あなたのお名前は?」
キラは尋ねてみた。
「名は、ステラです。主にいただいた名前です。夜空の星という意味だそうです。」
「ステラ・・・そう。・・ステラさんは、フローラという名を聞いたことはありますか?」
「いえ、ありません。」
「では、似たような名の女性を知りませんか?」
キラは少し強引に訊いた。
「私は、主、以外の方をお話ししたことがありません。他人とお話するのは、キラ様が初めてです。」
キラは驚いた。
少なくとも、自分より年上に違いない。これまで、他の人間と話したことがないなど想像もできなかった。そして、自分の名をこの女性が知っている事にも驚いてしまった。
「ステラさんは、どうして僕の名を?」
「主より、全て伺っております。お名前は、キラ・アクア。南方のジオフロントからここまで来られたことも知っています。」
「では、僕が何の目的でここに来たかも?」
「はい。ジオフロントの皆さまにお会いになるためでしょう。」
「では、フローラという女性に会いに来たことも?」
「それは知りませんでした。」
「フローラは、ここで生まれ、不慮の事故で海に投げ出され、長い時間をかけてジオフロントの近くの海に流れ着いたんです。そうだ、10年ほど前だと聞いています。大きな火事が起きたのだと・・。」
「ここでそのような事故は起きていませんし、海に投げ出されるような場所もありません。きっと何かの間違いでしょう。」
確かに、ステラの言う通り、オーシャンフロント全体が高い塀に囲まれていて、誤って海に落ちるなど考えられないことは、到着した時に確認していた。
「でも、ここで生まれたのは間違いない。彼女を守っていたPCXが話していました。」
「存じません。」
ステラは、本当に知らないようだった。
「じゃあ、僕の仲間たちはどこにいるんです?会いに来たのです。会わせてください。」
ステラは少し間をおいて答えた。
「それは、主のお決めになる事です。私には判りません。まだ、こちらに来られて、まだ数時間しかたっていません。そんなに急ぐこともないでしょう?まずは、ここの満ち足りた暮らしを満喫されてはいかがですか?」
「それも、主の意思なのですか?」
キラは厳しい声で訊きかえした。
ステラは、顔色一つ変えず、答える。
「そうです。すべては主の御意思に従う事です。ここへ来た以上、主に従う事。そうすれば、あなたの望みも叶うでしょう。」
ステラは、柔らかな微笑を見せて、何の疑いもなく、そう言った。

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