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3‐9 白い部屋 [AC30 第3部オーシャンフロント]

キラは、白い部屋の大型のソファーで目を覚ました。
目の前は、大きなガラス窓ごしに、青空が見えた。
キラは立ち上がり、天井まで広がるガラスの前に立った。眼下には、同心円上に整備された、田園風景が広がり、中央部に直線道路が見える。足元まで視線を落とすと、大きな噴水も見える。そして、その周囲に、円柱形の低い構造物が左右に際限なく広がっていた。
キラは外の風景を眺めながら、自分がこの島の中央部にあったタワーの中にいる事を確認した。
部屋は、円形をしていて、中央にソファーが一脚置かれているだけだった。白い壁がぐるりと取り囲み、どこにもドアがない作りだった。照明器具はなく、壁自体が白く光を放っているようだった。
「さて、どうしたものか・・。」
そう呟いて、キラは再びソファーに座った。
すると、後方の壁がゆっくりと変形し、開口部を作り、そこから白い服を纏った女性が現れた。
その顔だちと体格などから、先ほどの白い衣服を纏った女性の一人ではないかと思った。

「お目覚めですか?」
今度は女性から口を開いた。
それも、上品な笑顔をたたえ、抑揚のある感情を感じられる言葉であった。
「長旅でお疲れだったのでしょう。途中で倒れられたので、このお部屋でお休みいただくことにしました。」
優しい表情で、ゆっくりとキラへ近づいてくる。

「何かお飲物でもご用意しましょうか?」
キラはそう問われても、どう応えてよいか判らなかった。ジオフロントで飲料といえば、水かフィリクスの果汁、それに野草のスープ程度しかない。ガウラだけは特別な飲み物を自分で調合していたが、詳しくは知らない。
「この季節は、果物のジュースがとても美味しいですから、いくつかご用意しましょう。」
女性がそう言うと、ソファーの床が開いて、箱上のものが出てきた。上部が開くと、中に、緑や黄色、紫の色をした飲み物が入った小さめのグラスが並んでいる。

「お好みのものをどうぞ。」
女性は笑顔で勧める。
「オーシャンフロントの畑で収穫した果物を絞ったジュースです。先人類から受け継ぎ、守ってきました。メロン、オレンジ、グレープ、アップル、地球上から絶滅した植物ばかりです。どうぞ。」
キラは、フィリクスの果汁に近い、緑色のグラスを取り、一息に飲みほした。口の中に感じたことの無い爽やかな甘みと香りが広がる。
「それはメロンジュースです。今が旬の果物です。いかがですか?」
「美味い・・・。」
「宜しければ他のものもどうぞ。」
キラは勧められるまま、他のグラスにも口をつけた。どれも今まで味わったことの無い甘美なものだった。
「食事はいかがですか?」
キラは、ここまでの数日、わずかなドラコの干し肉とフィリスクの実のフレークを口にしただけで、空腹だった。だが、素直に返事ができず、「ああ・・」と曖昧に返事をした。

「すぐにご用意します。」
ほんの数秒だった。先ほどと同様にソファーの前の床が開き、下から箱が現れる。上部が開くと、そこには、スープやパン、それに見たこともない肉の塊、みずみずしい野菜などが盛られた大皿が置かれている。
その美味しそうな匂いに、キラは、我慢しきれず、がつがつと食べ始めた。
女性は、キラの姿を笑みをたたえた表情で見守っていた。
目の前の大皿の食事を、綺麗に平らげたキラは、ようやく、落ち着いた。
そして、先ほどから、ずっとキラを見守っている女性の微笑みが、警戒心を解いてくれたようだった。


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