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3‐8 白い人々 [AC30 第3部オーシャンフロント]

扉の奥には地下への通路があった。全員が扉の中に入ると、ゆっくりと扉が閉じる。すると、立っていた床が静かに前進を始めた。
キラは、予期せぬ事に、つい、よろけてしまい、隣にいた女性の腕を掴んでしまった。
女性の腕は温かかった。
「すみません」
キラは腕を強く掴んだことを詫びた。
だが、当の女性は全く意に介さないのか、表情一つ変えず立っている。体温を感じ、確かに人間であるはずだった。だが、人間とは思えないほど無表情であり、感情を見せなかった。
床は音もなく進んでいく。遥か視線の先まで、白い通路が続き、終着が判らない。進んでいるのかどうかさえ判らないほどであった。
キラは、先ほどの女性の顔を今一度見直した。どことなく、フローラと顔立ちが似ている。
ゆっくりと反対側の女性を見ると、やはり良く似た顔立ちであった。
それに、前後左右の女性たちすべてが、背格好もよく似ている。何か、余りにも、似過ぎていることに、キラは違和感を覚えていた。

「お尋ねしたいことがあるんですが・・。」
キラが言葉を発した。静寂の通路の中にキラの声だけが響く。女性たちは微動だにしない。
しばらくの沈黙のあと、声が聞こえた。
「あなたのご質問にはお答えできません。」
誰が言ったのか判らないが、取りつく島もない返答が返ってきた。
それでも、キラは続ける。
「皆さんは姉妹なのですか?」
返答はない。
「ここには男性はいないのですか?」
「どれほどの人が暮らしているのですか?」
「主とはどんな人なのですか?」
矢継ぎ早に質問を投げてみた。
何かに反応してくることを期待した。だが、何の反応もない。
キラは、我慢できず、隣にいた女性の腕を強く掴んで、「何か答えろ!」と叫んだ。
腕を掴まれた女性は、特に驚く事もなく、ゆっくりと、キラの方へ顔を向けた。先ほどと同様に、無表情のままだった。
「さあ、何とか言ってみろ!」
その女性の目を覗き込むように再びキラが迫る。
すると、取り囲んでいた女性たちが一斉にキラの方へ体を向けた。
取り囲んだ女性たちの顔は、すべて、無表情であった。そして、全てフローラに似た顔立ちで、全て同じではないかと思えるほどだった。
「人間じゃないのか?アンドロイドか?」
キラはうろたえながら、取り囲む10人の女性の腕を次々に掴んでみた。すべて、体温を感じる。それに、脈もあり、呼吸もしている。
「何か言ってくれ!」
キラは懇願するように言った。
「ご質問にはお答えできません。」
先ほどと同じ答えが返ってきた。だが、女性たちの口は開いていない。どうやら、先ほどの答えも、この通路のどこからか聞こえてきたものと判った。
落胆し、キラは跪いた。
先ほど嗅いだ、甘美な香りを再び感じた。そして、その香りは先ほどよりも一層強くなり、キラは意識を失った。

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