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3‐7 奇妙な風景 [AC30 第3部オーシャンフロント]

開口部から中に入ると、眼前に、長閑な田園風景が広がっていた。
そこから、まっすぐに、あのピラミッドの形をした山に向かって舗装道路が伸びている。しんと静まり返り、動くものは何もない。
「乗りなさい。」
傍に立つPCXが椅子状に変形した。それを2体のPCXが翼の様な形に変形し、合体する。ちょうど、飛行機のような形状になった。もちろん、キラはそのようなものは見たことがなかった。
椅子に座るとふわりと浮き上がり、先ほどの直線道路上をゆっくり、山の方へ向って行く。
脇には人型のままのPCXが周囲を見張るように目線を動かしながらついてくる。
このPCXは、キラを見張るというより、周囲の異常を発見する役割を担っているようだった。
左右には広い田園が広がり、美しく整えられた畑には、見たこともない植物が植えられ、赤や黄色の実をつけている。田園のあちこちに、球形のPCXが浮かび、監視をしているように見えた。
10万人ほどが生活できるほど広大なオーシャンフロントと聞いていたが、上陸して、まだ一人の人間にもあっていなかった。
田園地帯を過ぎると、森林が広がっている。直線道路は、その森の地下を抜ける大きなトンネルに繋がっている。
トンネルの中は、明るすぎるほどの照明が施され、一定の間隔で、横穴の様にトンネルが作られているのが見える。その奥も、また明るい照明で照らされていた。
しばらく、トンネルを進むと、ようやく出口が見えた。
「もうすぐ、カルディアタワーに到着する。」
傍に居た人型のPCXが告げる。
出口を抜けると、草原が広がり、その先の山の頂上を見上げると、白く輝く円柱の構造物が見えた。目を凝らすと、草原の中にも背の低い構造物がいくつも建っていた。
「人間は住んでいないのか?」
キラが呟く。
「その質問には答えられない。」
人型のPCXが機械的に答えた。
直線道路の終点には、見上げるほどの噴水がある広場があった。PCXたちは、そこで停まった。
「降りなさい。」
キラが椅子を立つと、PCXたちは全て、球形に変形してキラの頭の上で静止した。まるで何かを待っているようだった。
しばらくすると、噴水の前の床が開いた。そこから、真っ白の布を体に巻き付けたような着衣姿で、長い髪の女性が10人ほど現れた。
女性たちは、綺麗に列を作り、まっすぐにキラのところへ歩いてくる。人間には間違いないようだが、その動きは、まるでアンドロイドのようだった。
そして、キラの前に立つと、先頭の女性が、静かに言った。
「主の許へご案内いたします。」
鈴の様な美しい声だった。だが、そこには何の感情も感じられない。表情も変わらなかった。歓迎しているともそうで無いとも思えない。やはり、アンドロイドなのではとキラは考えた。
「主とは?」
キラがその女性に尋ねた。
「その質問にはお答えできません。」
さきほどのPCXと同様の答えが返ってきた。

「ご案内いたします。」
女性の一人が言うと、白い衣服に裳を包んだ女性たちが、キラを取り囲んだ。キラは今まで嗅いだことの無い甘美な香りを感じ、少し頭がぼんやりとした。
「参ります。」
そう言うと、白い服の女性たちが静々と、噴水前の扉に入っていく。開口部から中に入る。目の前には、田園風景が広がっていた。

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