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3‐12 謁見 [AC30 第3部オーシャンフロント]

「ステラよ、キラを案内せよ。」
突然、部屋の中に声が響いた。
ステラは立ち上がると、キラを連れて、白い部屋を出た。
ぐるりと円形の通路がつながっている。通路の内側は空洞になっていて、清々しい風の流れを感じられた。ちらりと空洞部分に目を遣ると、かなり深くまで繋がっている。底は暗く、どうなっているかは見えなかった。
「こちらです。」
ステラに言われるまま、通路を歩いていくと、1か所だけ、円形に床の色が黄色く塗られた部分があった。
「そこへお立ち下さい。」
キラがその上に立つと、黄色い床がゆっくりと浮かび上がった。アラミーラのように浮遊するものだった。
黄色い円盤は、タワーの中心部の空洞に移動すると、ゆっくりと上昇していく。ステラは通路に留まっている。
キラが上を見上げると、タワーの最上部と思える天井が近づいてくる。あと数メートルにまで近づくと、天井が静かに開き、キラはその中へ入っていく。
そこは、360度透明のガラス状のドームに覆われた空間だった。そして、その中心は1段高くなっていて、白い半透明の膜に覆われた、舞台のような場所があった。
その舞台が、やわらかな光を発すると、膜の中に人影が見えた。
「キラよ、よく来た。」
主の声だろうか、厳かでゆったりとした口調、男性のものとも女性のものとも判別できないものだった。
「我は、オーシャンフロントの創造主である。」
その声とともに、薄い膜が開き、女性らしき人物が顔を見せた。
スリムな体型で長身、長い髪と白い素肌、美しい顔立ちであった。
年齢は不詳だが、うら若い乙女というほどではない。ステラよりも少し年齢が上のように見えた。
白い衣服を纏っているが、他の女性たちと違うのは、その衣服にはキラキラと光りを反射するような素材を使っている事だった。
きらびやかで全身を飾り付けたような人物が現れるだろうと想像していたが、裏切られた。
キラを見おろす視線には異常なほどの威圧感があった。
「ここは、ジオフロントは比べ物にならぬほど満ち足りているであろう。」
キラは何か答えなければと感じていたが、余りの威圧感で言葉が出なかった。
「先人類が終焉の時、技術の粋を集めて世界中にジオフロントやオーシャンフロントを作った、だが、それらはほとんど役に立たず、ほとんどに人類は死滅した。だが、ここは違う。我が、全てを設計し作り上げたユートピアである。未来永劫、何不自由なく生きて行けるのだ。」
彗星衝突からすでに700年の時が流れている。目の前にいる女性が、本当にこのオーシャンフロントを作り上げたとすれば700歳を超えている事になる。キラは、ジオフロントのクライブント導師の事を思い出していた。目の前にいるのは、PCXが変形したものか、コンピューターに操られた女性に過ぎないのではないかと思った。
「あなたは本当に創造主なのですか?」
キラがようやく口を開いた。
「疑うのも無理はない。700年の時を超え、生き続けるなどできないと考えておるのだろう?だが、時を超えて生きる技術があるとすればどうか?」
創造主は、予期した質問であると当然の顔をして答えた。
キラは、強い口調で言った。
「そんな技術などあるはずはない。アンドロイドだろう!」
創造主を名乗る女性は、笑みを湛えて応えた。
「まことに浅はかな考えである。命には限度はない。肉体を保ち続ける技術があれば、命は永遠なのだ。証拠を見せてやろう。」
女性はそう言うと、目の前に小さな剣を取り出し、自らの腕に刺した。
どくどくと真っ赤な血が流れ出し、きらきらと光る白い衣服が、見る間に真っ赤に染まった。
「さあ、わかったであろう。・・さがりなさい。」
すると、キラの立っていた床がぱっと開き、黄色い円盤が沈んでいく。こうして、創造主との対面が終わった。


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