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3‐19 言い伝え [AC30 第3部オーシャンフロント]

「ドロスの中には、古い言い伝えがあります。私は信じていませんが・・中には信じている者もいます。」
「どういう言い伝えだ?」
「私たち、ドロスは、不完全な者なのです。あなたの言うとおり、創造主に命を与えられたにもかかわらず、タワーで暮らすことは許されず、ぼろ布を纏い、狭い住居で、日々食い繋ぐことさえままならないのです。・・これを見てください。」
エルピスはそう言うと腰の辺りに巻かれていたぼろ布を剥いだ。太ももから下が無い。
「ここにいる者は、皆、体のどこかが欠けた者達なのです。創造主は、完全なるものをパトリとし、我らのように不完全なものは不要なのです。」
キラは、エルピスの体を見て衝撃を受けた。
そして、周囲の者も皆、どこか欠損していることに気付いた。

「何百年もこうして暮らしているうちに、ある言い伝えが生まれました。」
エルピスは一層悲しげな表情に変わった。
「パトリの血を飲めば、完全な者に近づけるという言い伝えです。・・厳しいドロスの暮らしから抜け出したいという強い思いが、そうした馬鹿げた言い伝えを生んだのです。でも、これまで、パトリはおろか、ノビレスさえも、ドロスの住む場所に現れたことはありませんでした。真偽などどうでも良いのです。そう信じることで辛い暮らしに耐えていけるという思いは理解できます。」
話し終わったエルピスの目には涙が浮かんでいる。
「そんなバカな事が・・・じゃあ、ステラは・・・。」
「言い伝えを信じている者は数多くいます。もし、そうした者が見つけていれば、今頃・・・。」
ステラの置かれた状況は容易に想像できた。
「そんな・・・すぐに止めなければ・・・。」
キラが言う。
「ドロスの住居は数多くあります。地下トンネルでつながっていますが、そのすべてを知る者などいません。探し出すのは無理です。それに、パトリが居なくなったと判れば、すぐにPCXたちが探しに来ます。PCXが早く見つけていれば、もうパトリのエリアに戻っているかもしれません。」
そこまで話した時、一人のドロスが慌てて住居にやってきた。
「PCXたちが赤く光ってこちらに向かってきます。」
エルピスの顔色が変わった。赤い光は攻撃色である。キラを捕まえに来たのだろう。

「さあ、あなたはここから出て行ってください。」
エルピスは、そういうとくるりと向きを変えた。
それと同時に、周囲に居たドロスたちが、キラの乗っているベッドを担いだ。そして、出口へ向かう。
「もうひとつ教えてくれ、僕の仲間たちはどこにいる?」
キラは叫んだが、とても聞き入れられるような状態ではなかった。
出入口まで進むと、ベッドから振り落とされた。
出入口が開かれ、ドロス達がキラを外へ押し出そうとする。
キラは、必死に抵抗した。
その勢いで、一人のドロスのぼろ布をはぎとってしまった。
顔が現れた。その顔は、創造主と似ていた。いや、ステラともフローリアとも似ていると感じた。
「どうして・・・。」
キラは、ドロスの住居から外へ放り出されてしまった。
顔を上げると、タワーが遠くに見えた。

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