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3‐20 森へ [AC30 第3部オーシャンフロント]

ドロスの住居を放り出されたキラは、すぐに身を隠さなければと考えた。
すでにPCXが追ってきているに違いない。オーシャンフロントのすべてを掌握している創造主にしてみれば、キラの所在など、すでに突き止めているに違いなかった。
ドロスの住居の周囲には、樹木が立っていた。そしてそれは、北側に広がる山まで深い森になって繋がっている。キラは、森の中にまずは身を潜める事が賢明だろうと考えた。幸い、まだ、近くにPCXの姿はない。迷っている時間はない。樹木の影を使って、ひたすら、深い森を目指した。
森の中を走るのは、ジオフロントでも慣れていた。虫たちの気配を察知しながら、それを縫うように、ジオフロントと地表とを行き来した事と比べれば、オーシャンフロントの森は走りやすい。
夕暮れまで走り続け、キラは深い森に入る事が出来た。

キラは、本能的に、高い樹木の上に登った。虫たちから逃れるには、高い木の上が最も安全だったからだ。
枝の隙間から、カルディア・タワーが見えた。
目を凝らすと、タワーの周りを飛び交う光が見える。
赤い色で点滅しているところを見ると、PCXの集団だろうと思われた。だが、不思議なことに、PCXたちは、決して森の方には向かって来なかった。
完全に日が落ちる。
高い木の枝に身を横たえ、体を休める。
静まり返った森、暗闇が広がる。
「ガサ…ガサガサ・・。」
どこからか音が響く。しばらくすると、梢が揺れる音も響いた。
「ゴンゴン・・ゴンゴン・・」
何かが木にぶつかるような音も響く。
ステラが話していた「人間と変わらないくらいの動物」なのだろうかと考えていた。注意深く聞いていると,音は徐々に増えているように感じた。そして、次第に、キラの潜む樹木の周囲を取り囲むように感じられた。危険が迫っている、本能的に感じた。だが、今のキラには戦う武器がない。そうしているうちに、取り囲んだ気配は徐々に狭まってきている。
キラは暗闇で目を凝らす。飛び移れそうな高い樹木が近くにあった。木々の上を飛び移り、何としてもこの場から逃れなければならない。
パッとキラは隣の樹木に飛び移る。そして、また隣へ、力を振り絞って梢を移動する。取り囲んでいる動物の気配もそれにしたがって移動してくる。キラは取り囲む気配が最も少なく感じられるほうへ向かって梢を飛び移り続ける。徐々に、北側の高い山のほうへ移動していく。取り巻く気配は決して襲ってくることはなく、ただ、キラを取り囲んでいる。
高い山へ近づくにつれて、深い森が途切れる場所に出た。いくつかの大きな岩が転がり、低い草が生えているような場所だ。キラはそこまで来て、誘導されてきたように感じ始めていた。
最後の大きな木の梢に取りついた時、あたりが白み始めた。
ふと足元を見ると、木々の間や岩陰に隠れるように、茶色い毛に覆われた大小の塊がいるのを見つけた。大きいものは人間の2倍くらいの大きさだった。だが、それは、キラの知っている虫たちのような手足がないようだった。ずんぐりとした形で、目も鼻もどこにあるのかわからない。高く飛び上がったり、鋭い牙や鎌を使って襲うとは思えない。だが、油断はできない。ジオフロント地表に居た虫たちの中には、ずんぐりとした丸い形状の虫がいる。カタピラと呼ぶその虫は、目も手も足もないが、体から紫色の毒液を吹き出し獲物を仕留める。同じような動物なのかもしれない。キラは梢でじっと「茶色い塊」の動きを探った。
「茶色い塊」はキラが動きをやめるとその場でじっと動かなかった。キラの出方を伺っているようでもあった。キラはその「茶色い塊」が岩の上にはいないのを見て、高い岩の上なら安全ではないかと考え、梢から最も近い大岩の上に降りた。案の定、「茶色い塊」は大岩の周りに集まったものの、上がってくることはなかった。キラはこの先、どのように脱出するかを考えた。周りには、いくつも大岩はある。飛び移れないこともない。だが、どこまで逃げればよいのだろう。そう考えていた時、急に足元の「茶色い塊」が動き始めた。大きな「茶色い塊」が台になり、その上に少し小さいものが乗り、さらにその上に、小さいものがという形で徐々に「茶色い塊」が大きく岩の上に上がり始める。周囲を見るとかなりの数がいる。

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