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3‐22 地中深く [AC30 第3部オーシャンフロント]

「ニコラ様、ここに長くとどまっていては危険です。」
上空から声がした。そこには球形のPCXが浮かんでいる。キラは驚いた。PCXは創造主のしもべである。
「なぜ、PCXがここに?」
「キラ、すまないが、話はあとだ。我らの住居へ戻るぞ。」
ニコラはそう言うと、通路を走り出した。周囲にいた者たちも、ニコラの後に続いた。細い通路を一気に駆け抜け、通路の壁にいくつも開けられた洞窟のようなところに、次々に飛び込んでいく。真っ暗な中を這うようにしばらく進むと、ぽっかりと開いた大きな空間に出た。
そこには、ニコラたちのような屈強な人間や、白い衣服を着た女性、それに数体のPCXやエリックのような大きいロボットもいた。ジオフロントほどではないが、ある程度の住環境が揃っているようだった。
「ここが居住区だ。山の最深部から、それにつながるフローターの中にある。先人類がカルディアの迫害を逃れるため、緊急用のシェルターに隠れ、それから長い時間をかけて、人々が暮らせるように作り変えたのだ。」
「ここなら安全なのですか?」
「いや・・カルディアたちは我らがここに居ることは知っている。襲うことも考えているだろう。だが、それができない理由もあるのだ。・・まあ、詳しい話は私のセルで話そう。君のジオフロントのことも知りたい。」
ニコラはそういうと、自分のセルへキラをお案内した。小さな四角い箱状のものが、ニコラのセルだった。人間2人ほどが横たわるのが精いっぱいの大きさだ。
「カルディアは、先人類の滅亡を避けるために、世界中から集められた科学者の一人だった。彼女は、地磁気エナジー変換システムを開発した。特殊な技術で作り出されるカルディアストーンこそが、人類の生き残りの命綱だったようだ。」
「カルディアストーンは知っています。ジオフロントエナジーシステムはストーンの崩壊で停止し、長い間、緊急用のエナジーに頼ってきました。私は、友と一緒に、大陸を旅して、ストーンを発見し持ち帰ったのです。」
「そうか・・だが、君らのジオフロントは幸運なほうだ。多くのジオフロントは、エナジーシステムの停止で死滅した。中には、ジオフロント自体が崩壊してしまったところもあったようだ。」
「カルディアストーンに欠陥があったのですか?」
「いや、そうじゃない。世界各地にジオフロントやオーシャンフロントが建設された。それとともにカルディアストーンも大量に必要となった。カルディアストーンの製造は彼女にしかできなかった特殊な技術だったために、ジオフロント建設見合った数ができなかったんだ。それで。先人類の為政者たちは、彼女を拘束し、卑劣な方法で製造技術を奪い取った。だが、それから作られたカルディアストーンは粗悪なものだったようだ。」
「オーシャンフロントのエナジーシステムは大丈夫なのですか?」
「ここは、オーシャンフロントの第1号。すべてカルディアが手がけた。カルディアストーンも最大級のものを使い、完璧なシステムなのさ。我らがいる場所の下、ここに、カルディアストーンのエナジーシステムがある。」
「カルディアが攻撃をためらうのは、エナジーシステムを守るためですか?」
キラが訪ねる。
ニコラは、にやりとして言った。
「我らの祖先は、エナジーシステムへの進入路を発見し、破壊する装置を作り、取り付けた。外そうとするだけでシステムは破壊されるようになっている。それに、もっと大事なことがある。ここに居る誰かが体の中に起爆スイッチを持っている。だれかはわからない。どういう装置なのかもわからない。PCXを送り込んで、我らを殺せば、爆発が起こる。だから、彼女は我らを恐れているのだ。その状態が長く続いてきた。」
ニコラのセルに、白い衣服を着た女性が二人、小さな入れ物の飲み物を運んできた。
「彼女たちは、もともと、ドロスの集落に居た。だが、一人は視力を完全に失い、ドロスからも追放された。もう一人はノビレスだったが、何らかの理由で両腕を切り落とされ、追放された。カルディアは不完全なものを許さない。・・・森の中を彷徨っていたところを保護したのだ。・・・ありがとう、下がっていいよ。」
そう言うと、女性たちは静かに下がった。
「ほかにも多数いるはずだ。ここは、カルディアから迫害を受けたものは誰でも受け入れる。君もその一人だ。」
ニコラは寂しげな表情で外を見ていた。

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