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3‐23 見捨てられた人達 [AC30 第3部オーシャンフロント]

「あの、PCXは?」
「あれもやはり同じ運命さ。何かの原因で故障したのだろう。オーシャンフロントの廃棄物排出口で見つけ、ここへ持ち帰り、修理した。おかげで、タワーの動きがよく判るようになった。PCXの監視隊の動きが判れば、畑の作物を奪うことも容易い。キラが、タワーから逃げ出したことも、ここにいるPCXが察知した。だから、君の身を確保することは容易だった。」
ニコラはコップの飲み物をぐっと飲み干した。
「ニコラさん、私がここへ来る前に、ジオフロント仲間が連れてこられたはずなのですが・・・。」
キラが訊くと、ニコラが答える。
「ああ、確かに、かなりの人間が連れてこられた。外の世界から人間が現れるのは、数百年ぶりの事だろう。」
「どこにいるのか判りませんか?」
「少なくとも、タワーの外へは出されていない。タワーの中のどこかだろう。それを調べるのは難しいぞ。」
「どうしても、連れて戻らなければならないんです。僕たちのジオフロントは復活しました。だが、そこにはわずかな女性しか残っていない。これでは何にもならないんです。」
「判るが・・・タワーの中へ入るのは容易いことではない。いや、無理だ。」
脱出したからこそ、タワーの中へ入ることの難しさはキラにはよく判っていた。だが、何としてもプリムたちに合わなければならない。
「そもそも、不完全なものを嫌い、ここに住む人間を迫害してきたカルディアが、どうして、ジオフロントの者たちをさらっていったのでしょう?永遠の命があるなら、そんな必要などどこにもない。タワーの中は何不自由ない暮らしが保証されている。・・そこがどうしても判らない。」
キラは憤慨しながら、目の前のコップの飲み物を一気に飲み干した。青臭く苦い飲み物だった。
「やはり・・時が来たのかもしれない。」
ニコラが呟く。
「時が来た?」
「いいか、キラ。これから話すことは憶測も多く、すべてが正しいとは限らない。だが、君の話を聞いて、憶測ではなく、確証もいくつか出てきた。だから、君に話しておこうと思う。」
ニコラは少し迷いながら、話を続けた。
「まず、カルディアの言う永遠の命の事だ。君は、タワーの中の女性の顔を見ただろう。どうだった?」
「皆、一様に美しく・・誰もがなんだかよく似た顔立ちだと感じました。」
「それと、男性の姿を見たか?」
「いえ、一人もみませんでした。」
「そうだろう・・・。」
ニコラはそう言うと、一旦立ち上がり、外にいる者に何かを告げた。
しばらくすると、居住区に居る、白い衣服の女性たちが集められた。背丈や手足は違うものの、やはり、どこかステラやフローラに似ているのが判る。
「掌を見せてくれ。」
ニコラが言うと、女性たちは掌を広げて差し出した。
「キラ、よく見てほしい。」
並んだ掌、大小の違いはある。指のないものもいる。キラは一つ一つ見ながら「あっ」と声を出した。
「気づいたかい?そうだ、女性たちの掌にある皺の形が全く一緒なのだ。より詳しく調べると、指紋も全く一緒なのだ。」
「それは・・・。」
キラは混乱している。
「それともう一つ。彼女たちは、父や母を知らない。いや、そういう概念がない。すべて、創造主カルディアにより作り出されていると教えられている。いや、事実、そうなのではないだろうか?」
「命を作り出しているということですか?」
「難しいことではない。先人類の時代、すでにクローン技術は確立していた。おそらく、その技術をさらに進化させた技術をカルディアが持っているのではないかと思う。」

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