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3‐26 侵入 [AC30 第3部オーシャンフロント]

「わかった。では、PCXに案内させよう。それと、丸腰ではどうにもならない。小さいが役に立つ武器を持って行くと良い。我らも、何とか、君の力になれるよう、考えてみよう。」
ニコラは、1センチほどの「小さな箱」のようなものを幾つかキラに渡した。
「PCXの部品から作り出したんだ。『イグニス』と呼んでいる。ライブスーツの中に隠しておけばいい。一つでかなりの破壊力のある爆薬だ。投げつけるだけで良い。強く握りしめると強力な磁力エナジーを発して、しばらくの間、PCXの動きを止めることができる。」
そう言うと、PCXを呼び、ドロスの住居のあるエリアまで案内させた。

地中の通路はフローターの上に作られている。しばらく進むと上部へ繋がる狭い穴があった。
「私に乗って下さい。」
PCXに乗ると、まっすぐに上昇していく。出口が見える。深い草が植えられていて、穴とは気づかれないようになっていた。
「ご無事で。」
PCXはそう言うと、すぐに引き返して行った。
草叢を抜けて、ドロスの住居まではすぐだった。中の様子を見る。ベッドや椅子はそのままだったが、ドロスの女性たちは居なかった。PCXによって、綺麗に消去されたのだろう。円柱状の建物の周りには、深い草木が生い茂り、とても他の場所へ行けるような道はなさそうだった。
キラは住居内を探ってみた。予想通り、床に扉があり、開けると地下通路が続いていた。中に入ると、照明が点く。これで、カルディアにもキラの居場所が判っただろう。とにかく、タワーへ急いだ。通路は、幾つもの分岐があったが、分岐場所に使づくと、次の通路の明かりが点く。カルディアが誘導しているようだった。キラは構わず、そのまま進んだ。徐々に通路が大きく、広くなる。
最後の分岐を通過すると、目の前に大きな壁が現れた。白い壁だ。キラが壁に近づくと、大きく開口部が出来た。もはや、カルディアの手の中に居るのと同じだった。壁を抜けると、そこはぼんやりと薄暗い。見上げると、はるか上部まで空洞が広がっている。タワーの中空部分の一番底にいるのだと考えた。カルディアの部屋ははるか上空だ。この辺りは、ノビレスのエリアだろうか。だが、女性たちの姿は見えない。キラが入ってくることを察知して、女性たちを全て部屋の中に移動させたに違いなかった。
落下した時、中空部分には強い気流があった。しかし、今は静まり返っている。
キラは、壁に沿って歩いてみた。脱出した時、落下の途中に見たノビレスエリアは、上層階の部屋と違い、ドアらしきものが見えたからだった。薄暗い中をゆっくりと進む。少し前方に、ほんのりと明るく見える場所がある。静かに近づく。ほんの少し壁に隙間がある。そこから灯りが漏れているのだ。どうにかして開かないかと手を差し込んでみるがとても入るような隙間ではない。辺りの壁を手あたり次第に弄っていくと、偶然、何かに触れ、ドアがゆっくりと内側に開いた。
「ヒイ!」
小さな悲鳴のような声が上がる。そこには白い衣服の女性が固まるように床に座っている。キラが一歩足を踏み入れると、女性たちがさらにひしめくように身を寄せた。明らかに、キラに対して強い恐怖心を抱いている。カルディアのクローンという話を聞いてしまったためか、そこにいる女性は皆同じ顔をしているように見えた。
会話が出来る雰囲気ではなさそうだった。
一人の女性に近づき、手を伸ばそうとすると、その女性がパニックを起こし、周囲の女性に掴みかかる。それは部屋中の女性たちに連鎖し、半狂乱になった女性たちは、開いたドアから次々に走り出した。
薄暗い、地階エリアの中を女性たちが逃げ惑う。その騒ぎに気付いたのか、他の部屋からも女性たちが飛び出してくる。叫び声と走り回る足音、ノビレスのエリアが大混乱を起こしている。
そのうち、一人の女性が、上階へ続く通路を駆け上る。すると、逃げ惑う女性たちは、虫の集団のようにそれに続く。そうして、騒ぎが徐々に上の階へ広がる。キラはその混乱に乗じて、上の階へ進んでいく。
ノビレスのエリアの上は、プレブのエリアだった。そこは明らかな区別があり、通路は途切れている。そして、仮想の混乱とは無縁のように、静まり返っていた。
「あそこに、フローラは居るかもしれない。」
プレブの女性が海に流されるという話を思い出していた。

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