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3‐29 クローンの葛藤 [AC30 第3部オーシャンフロント]

「彼らを・・連れ戻す・・なんて・・無理よ・・・。」
涙を零しながらフローラは何とか言葉を発した。
「どうして・・このタワーのどこかにいるんだろ?それとも、もう・・」
キラはその先の言葉を口にできない。
「命は奪われてはいないはず。でも・・。」
「生きているのなら・・・。」
フローラが首を横に振る。
「どこにいるんだ、知ってるんだろ!」
「はっきりとは、わからない。ただ、タワーの地下にある『命の泉』の近くにいるはず・・・。」
フローラが戸惑いながら答える。
「命の泉?」
「ええ・・私たちはみな、そこで生まれるの。そして、すぐに、ドロス、ノビレス、プレブ、パトリに分けられるわ。プレブに分けられた者は、しばらくすると、この部屋に連れてこらえるのよ。」
「そこが、カルディアのクローンを作り出しているところなんだね・・。」
キラの言葉に、フローラは一層悲しい表情を浮かべた。
「そう・・私たちはみなクローン・・・人間ではない・・のよ。」
事実だった。キラは言葉がなかった。
「長くクローンを作り続ける中で、遺伝子に傷がついてしまうことがあるようなの。生まれてくるクローンは、次第に個体差ができ、完全なクローンはごく一部、それがパトリなの。知性も精神もすべてカルディアから受け継いだ完全体。でも短命で、20年ほども生きられない。私たち、プレブは完全体でありながら精神を受け継がなかった者。ノビレスは、正常な身体を持つけれど、精神的に不安定で知性異常もあるの。ドロスは、体の欠損がある異常体。でも知力も高く生命力が高くて長寿なの。」
「男性のクローンはいないのか・・。」
「居ないわ。カルディアの細胞から作り出されているから。」
フローラの説明で、永遠の命はクローンによる継承に過ぎない事を改めて確信した。そして、それだけの事を知っているフローラにふと疑問がわいた。あの「白い部屋」にいたステラは、創造主を絶対視し、神格化し、精神的にもすべて支配されていた。おそらく、ここに居るクローンは、創造主に従順であり、こうした事実を知ることもないはずだった。
「フローラ・・そこまでの事をどうやって知ったんだ?」
「ここへ戻った時・・すべての記憶が消されたの。ジオフロントの事はすべて・・・。でも・・。」
フローラはそう言うと、左の腕を差し出した。そこには、小さな痣のようなものがあった。
「ある日、これを見たの。」
その痣はタトゥのようだった。よく見ると、ぼんやりと文字のように見えた。キラは、その痣をじっと見る。
「・・キ・・ラ・・、キラと書いてあるのか?」
「そう、それを見た時、パッと記憶が蘇ったの。ジオフロントの記憶が・・。あそこで過ごした日々は、今とは全く違っていた。皆、必死で助け合い、生きていた。喜んだり、悲しんだり、喧嘩もあった。私はクローンだとは知らなかった。本当に幸せな日々だった。」
フローラはそう話しながら、また、大粒の涙を零した。
「あの日、たくさんのPCXがやってきて、ここへ連れ戻された。そして、すぐに、洗浄された。すべての記憶を奪われたわ。カルディアにとって、所詮、私はPCXと同じ道具にすぎなかったのよ。でも、ある日、このタトゥを見て、思い出したの。私は何者なのか?・・一体、何をしたのか・・そして、カルディアは何をするためにジオフロントを探していたのか・・・そしたら・・」
そう言いながら、フローラは震えている。
「辛かったね。・・・真実を知ることは・・ほんとに・・」
キラは、ここへ戻ってからのフローラの葛藤を思うとそれ以上言葉にできなかった。
「私・・人間になりたい・・・クローンじゃなく、人間に・・・。」
フローラは吐き出すように言った。
あの地中で出会ったダモスの中にいた女性たちも同じ思いを抱えていたのだろう。そして、彼らダモスは、女性たちを受け入れ、新たな命を育んだのだと、ニコラの姿を思い出していた。

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