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3‐30 命の泉 [AC30 第3部オーシャンフロント]

「フローラ、ハンクやプリムのところへ案内してくれ。たとえ連れ戻すことが無理でも、彼らがどうしているか知りたいんだ。」
フローラの思いを叶えるためにも、とにかく、ここから脱出しなければならない。
「『命の泉』に行く方法は判らないわ・・おそらく、この部屋のずっと下のほうだと思うけど・・・。」
その時、部屋の壁が開いた。そして、機能が回復したPCXが物凄い勢いで入ってきた。真っ赤に点滅している。
ここに留まっているわけにはいかなかった。だが、逃げ道はない。
「フローラ!行こう!」
キラはそういうとフローラの手を強く握り、部屋の中央にある黄色い床の場所、海への通路の上へ立った。そして、ニコラにもらった『イグニス』を力いっぱい握りしめた。
強い光が部屋の中に広がり、PCXの動きが止まる。すると、黄色く塗られた床が割れ、キラとフローラは海への通路へ落ちた。二人は、暗い通路を真っ逆さまに落ちていく。
途中で、ドンと、何かに強くバウンドし、体が横に飛んだ。比較的やわらかいものにぶつかったようだった。キラはフローラの体を抱きしめたまま、床の上のゴロゴロと転がった。
薄暗い空間だった。
「怪我はないか?」
キラはフローラを抱き起しながら言った。
顔を上げると、四方に大きな卵のようなものが浮かんでいる。それはぼんやりと光を放っていて、近づいてみると、中に黒い塊のようなものがある。
「これは・・・。」
キラは、似たような光景を見たことがあった。
ジオフロントの近くにある沼地にいるグロケンたちの卵だった。全体がゼリー状のもので覆われ、黒い塊が白い膜で包まれている。中で黒い塊は時々動いていた。
目の前にあるのは、まさにその卵と同じだった。黒い塊に見えたものの中には、人間の赤ちゃんのようなものもあり、時折、ぶるっと震える。
フローラも初めて見る光景なのだろう。しばらく、その卵を見つめたまま動かなかった。
「ここは・・・。」
フローラが口を開いた。
「きっと、ここが、命の泉なんだろう・・・。」
キラが言う。
「ここで・・生まれたのね。・・・」
フローラは、目の前の『卵』に寄り添うように立ち、そっと触れる。温かい。もうはっきりした顔立ちが見て取れる。小さな手足が時折ぴくっと動くのも見える。そして、涙を流した。
キラは、周囲の様子を探った。
足元は柔らかく、掌の上を歩いているようだった。いくつも『卵』は浮かんでいる。よく見ると、浮かんでいるのではなく、壁や床と、太く赤黒い血管のようなものでつながっている。『卵』は人間頬の大きさのものもあれば、まだ掌ほどの大きさのものもあった。
「フローラ、こっちだ。」
空間の奥、小さな『卵』がいくつか並んでいるところから、キラが呼んだ。
そこには、小さな穴が開いていて、明かりが漏れている。手を突っ込んでみる。柔らかく温かく、押し広げれば通り抜けられそうだった。
「さあ、行こう。」
キラは、両手で押し広げ、先にフローラを入れた。頭が抜けたところでフローラは自分の力で通路を抜けた。続いてキラが通り抜ける。予想以上に楽に通り抜けることができた。
隣の部屋は先ほどの部屋より明るかった。
だが、その部屋の光景に二人とも言葉を失い、立ちすくんだ。

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