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1-2 大広間にて [アスカケ外伝 第1部]

次の日の早朝、馬に乗り、カケルが春日の杜を訪れた。モリヒコは、春日の杜の大門まで、カケルを迎えに出た。
「いかがされた、モリヒコ殿。このようなところまで迎えとは・・春日の杜で何か起きたのか?」
カケルはそう言いながら、馬を降りモリヒコに対面した。
モリヒコは、タケルとのやり取りをカケルに話した。
「そうか…思い悩んでいるのか・・・。」とカケルは言い、空を見上げた。
「申し訳ありません・・杜の内舎人(うとねり)でありながら、どのように導けばよいか判らず、カケル様にご相談をと考えました。」
「いや、それで良いのです。その答えは自ら見出すしかないでしょうから。」
カケルは、ハルヒと同じことを言った。
「自分は何者なのか、どのような役割を担うべきなのか・・・大いに悩むことが大事です。」
「しかし・・このまま、悶々と時を過ごすのもいかがかと・・」とモリヒコ。
「ここ、春日の杜では多くの事が学べる。おそらく、これより先は、われらより多くの知識を持ったミコトや女人がこの国を支えてくれるに違いないでしょう。皇とて、これまでとは違う役割を求められるに違いない。」
二人は、春日の杜の大門から、大屋根の館へ続く道を歩きながら話している。
カケルはふと立ち止まった。
「ここで学ぶ子らは、他国へは行ったことがありますか?」と訊く。
「いえ・・おそらく、ヤマトより他へ出たものは・・タケル様以外にはないはずです。」
皇子タケルは、父カケルが諸国へ出かける時、同伴されたことはあったが、まだ幼子であったため、多数の従者を連れていた。
「一度、旅をさせてみる必要がありそうですね。」とカケル。
「皇子が旅に出るという事ですか・・・」
「いや、それでは駄目でしょう。皇子となれば、国々では特別な扱いを受けるに違いない。美しきところ、良き所ばかりを案内してしまい、物見遊山の旅になる。それは、おそらくタケルも望んではいないでしょう。」
「では・・アスカケの旅にと言われますか?」とモリヒコ。
「それは、まだ少し早いでしょう。アスカケは自らの意思で決めるべき事です。手始めに、難波津へ行かせてみてはどうでしょうか?」とカケルが言った。
「難波津・・ですか・・。」とモリヒコ。
大屋根の館に、カケルとモリヒコが到着すると、すでに春日の杜の子どもたちが大広間に集まっていた。春日の杜には七歳から十五歳までの子どもが百人ほど暮らしている。そしてそれらの日々の暮らしと学びのために、モリヒコと筆頭に先生役である舎人は十人ほどいた。いずれも、郷から推挙された技術や知恵を持ったもので舎人と呼ばれていた。
モリヒコは、広間に座している子どもたちに向かって言った。
「本日は、摂政様から大事なお話がある。皆、しっかりお聞きするように。」
モリヒコがそう言うと、カケルがゆっくりと子どもらの前に出て椅子に座った。
カケルは子供らの顔を一人一人じっくり見ながら微笑んだ。
「皆、しっかり学んでいるようですね。本日は、アスカケの話の前に皆さんにお話ししたいことがあります。」
こどもらは、月に一度、カケルから「アスカケ」の話を聞くのを楽しみにしていて、皆、少し戸惑いが感じられた。居並ぶ舎人(先生)達からも戸惑いの表情が見えた。
その様子を見ながら、カケルが切り出した。
「ここヤマトの安寧は何によって守られていると思いますか?」
「皇様と摂政様のお導きによるものです。」
ひとりの幼子が答える。
「いえ・・そうではありません。」とカケル。
「お米がたくさん取れるからです。」とまた一人の幼子が答える。
「ほう・・米が取れるとは良い答えですね。ですが、その米は皆が懸命に働いた結果です。いうなれば、ヤマトの民が皆、懸命に働くためにヤマトの安寧が生まれているとも言えますね。・・他には?」とカケル。
「他国と仲良くできるからです。」とやや大きい子が答える。
「なぜ、他国と仲良く出来るのでしょう?」とカケルが問う。
「皇様と摂政様のお働きによるものでしょう。」と先ほどの子が答えた。
「いえ、違います。それぞれの国が他国の事を正しく知り、たすけあう事を何より大事にしているためです。ここにいる皆が己の欲のためでなく、友の事、父や母の事、郷やヤマトを大事にしているように、他の国々も大事にしようと思うからです。誰かが力を持ち従えるような考えを持てば、諍いや争いが起こります。そうならないために皆が力を尽くしているためです。」
カケルは、子どもらに諭すように話した。そして、
「年に一度、ヤマト国の安寧のため、摂津比古殿が首座となり、諸国の長や王が集まり相談する年儀の会が難波津で開かれます。これまでは、ヤマトから摂政である私と数名の内舎人様たちで行くこととしていましたが、此度は、春日の杜からも、数人、同行してもらう事にしました。」
難波津は、他国の人々が多数行き交い、ヤマト国のどの郷よりも賑やかであることは、幾度と話に聞いている。子らの憧れの場所の一つでもある。子どもらは色めきだった。
「ただし、条件があります。ただ、同行するのではなく、世話役や人夫、護衛の役を果たしてもらいたいのです。場合によっては、ヤマトと難波津の使者として一人で戻る事もあるかもしれません。あるいは、使者として諸国へも行ってもらう事もあるかもしれません。容易な旅とは言えないと考えてください。」
子どもらは、隣同士顔を見合わせる。
難波津には行ってみたいが、従者としての役割や使者としての務めを考えると、年端のゆかぬ者には務まらないに違いない。
「出発は5日後の早朝。明後日には従者を定めます。それまでに、内舎人様に申し出る様にしてください。」image5.jpg

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