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1-6 堀江の庄 [アスカケ外伝 第1部]

一行が、船を堀江の庄の港に着け、陸に上がると、多くの人が出迎えた。
すでに日は落ちているが、堀江の庄には、沢山の松明が焚かれ、通りは明るかった。
「ヤマトからお越しになられたモリヒコ様の御一行ですね?」
そう言って現れたのは、派手に彩色された着物を着た、やや大柄な女人だった。周りに娘御を何人も従えていた。
「摂津比古様より使いが参られ、ヤマトより船が着くので接待せよとの命を戴いております。私は、堀江の庄で宿主をしておるスミレと申します。さあ、皆さま、こちらに・・。」
そういうと、人夫が集まり船から荷物を降ろし運び始める。慌てて、タケルたちは、船に向かい人夫たちとともに荷を運ぼうとした。
「あら・・宜しいのですよ・・長旅でお疲れでしょう。」
スミレはそう言って、従者としてきた子どもらを止めた。
「いえ・・これが我らの仕事です。やらせてください。」
真っ先に答えたのはタケルだった。
その声を聞いて、スミレは少し驚いた表情をした。そして、何か言おうとしたところをモリヒコに止められた。
「ああ。そうさせてください。彼らは役割を担って来ております。しっかり果たせない者はヤマトへは連れて戻らず、ここでしばらく修行させますゆえ。」
モリヒコはやや冗談めいた口調で言った。
「あらあら・・それは大変・・。」
スミレも、万事承知したように答えた。
一行は、宿に着くと、部屋に案内された。モリヒコ、イヅチ、ウマジ、サスケにはそれぞれ一部屋ずつが用意されていて、部屋ごとに侍女と使いが置かれた。タケルたち従者は、大部屋に案内され、やはり侍女と使いが付けられた。
すぐに夕餉の支度が整えられ、一同は食堂(じきどう)に案内された。モリヒコたちは食堂の奥の座で食事を摂った。並べられた膳には、海の幸、山の幸がふんだんに盛られ、酒も振舞われているようだった。そこには、宿主の姿も見えた。
タケルたちは、他の旅の者と同様に、食堂の大きな食台を囲むように座り、食事を摂った。おそらく、モリヒコ達よりは劣るだろうがそれでも見事な料理が盛られていた。
「さあ、大したものはありませんがご遠慮なくお召し上がりください。」
部屋付きの侍女が食事を勧める。ヤマトも近頃は難波津から海産物が運ばれるようになっていたが、そのほとんどは干物か塩漬けであった。目の前には、新鮮な魚や貝が並んでいる。
「いただきます。」
皆まだ、子どもである。目の前の旨そうな食材に我先にと手を付けた。
「思った以上だな!」
口いっぱいに料理を押し込んだヤスキが声を上げた。トキオも、目の前の皿から大きな貝を持ち上げて同調した。
部屋付きの侍女はその光景をけらけらと笑っている。
「あの・・・・あなたの名は?」とカケルが訊いた。
侍女は、声を出して笑った事を咎められたのかと驚き、顔を伏せた。侍女は、カケルたちとあまり歳は違わないように見える。
「咎めているわけではありません。お名前を教えていただきたいと思いまして・・。我らとあまり歳は違わぬように見えたので・・暫くこちらにお世話になるのですから、お名前でお呼びできればと思いまして・・」
改めて、カケルが訊いた。皆も答えを待っている。
「ヤスと申します。今年十三になります。吉備、鞆の浦の生まれです。昨年から、こちらで働いております。部屋使いについているものはカズ。私の弟です。一つ年下でございます。」
侍女は神妙な顔を見せて答える。
「郷からこちらにお二人で来られたのですか?」と聞いたのはヤチヨだった。
「母もこちらに・・父が病で亡くなり、困っていたところを、吉備の国主であるマヒト様から難波津で働くよう勧められ参りました。」とヤスは答えた。
「国主様直々に?」とチハヤが訊く。
「はい。国主様は常より、自ら、郷を回られ、困ったことはないかとお尋ねになります。そこでお話しいただけたのです。」とヤスは答える。
「ふうむ・・カケル様もいつも田畑に出て我らの話を聞いて下さるが・・吉備の国主様も素晴らしきお方なのだな・・。」
ヨシトが感心したように言った。
「摂政のカケル様ですか?」とヤスが驚いてみせた。
「ええ・・そうです。」とヨシト。
「摂政様のお話は、一族の長イノクマ様からもお聞きしました。自らも、摂政様を見習いたいと申されておりました。イノクマ様は、今、国主様をお支えするお役目をされております。国の安寧は、民の働き、民の暮らしを知ることが肝要と、イノクマ様はことあるごとに国主様に進言され、国主様もしっかり心得ておられるようです。」
ヤスの返答を聞いて、皆がタケルを見た。
タケルは皆が何を言おうとしているか察して、小さく首を横に振った。
「ヤマトでは、カケル様だけなくアスカ様・・いえ・・皇様も村々を回られます。そして、病を見つけるとすぐに薬草を下さり、癒えるまで看ていただけます。ありがたい事です。」
チハヤが答えた。すぐにヤチヨも続けるように言った。
「私たちは、ヤマトの春日の杜にて幼き頃から共に学んできたものです。ヤマトでは、子どもらは春日の杜で剣や弓、書物、様々な仕事を学ぶことができます。良きところです。」
「良きところなのでしょうね・・・いつか行ってみたい・・。」
ヤスはそう言うと、空いた皿を持ち、御厨へ入っていった。
カケルたちはヤスの話を聞き、自らがどれほど恵まれているのかを痛感していた。
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