SSブログ

1-16 それぞれの道 [アスカケ外伝 第1部]

それから2日ほど、タケルたちはモリヒコの従者として、年儀の会に出たり、難波津宮の中を見て回ったり、各々が興味のあるものを見つける時間を過ごした。
4日目の昼過ぎ、年儀の会が終わったところで、摂津比古が、モリヒコの後ろに控えていたタケルたちを、広間の中央に出させた。
「さて、この度、ヤマトから従者として参った彼らが素晴らしい働きをした。近頃、頭を悩ませていた事を良き方向に導く術を教えてくれた。改めて、礼を申す。」
摂津比古がそう言うと、年儀の会に集う一同から拍手が上がった。
「聞けば、其方たちはそろそろアスカケの歳になるそうだが・・・各々、おのれの道は見つかっておるのか?」
摂津比古の言葉に、年儀の会の何人かが、「アスカケとは・・懐かしい」と小さく呟く。
「昨日、モリヒコ殿とも話したのだが、せっかくこの難波津まで来たのだ。暫く、ここにとどまり、アスカケの道を探してみてはどうか?ここには様々な国の者が集まっておる。見聞を広げるには格好の場所だ。いかがか?」
摂津比古に唐突に切り出され、タケルたちは戸惑って返答ができなかった。
その様子を見てモリヒコが付け加えるように言った。
「大和へ戻れば、冬備えの仕事のため、皆、郷へ戻り、春を迎える。郷もお前たちの帰りを待っているだろう。だが、昔とは違い、今の大和には人手もある。助け合えば何とかなる。それより、せっかくの機会なのだ。ここでさらに学び、いずれヤマト国のために、いや、倭国のために存分に働ける力をつけてもらいたいのだ。それは、摂政様も皇様も望まれておることなのだ。」
そう聞いて、まず、タケルが立ち上がった。
「私は、ここで学びとうございます。より多くの国の様子も知り、おのれに何ができるのか見極めたいと思います。まずは、難波津の会がどうなるのか、路地裏の者たちがどうなるのか、しっかりと見てみたい。」
次いで、チハヤが立ちあがった。
「私も、暮らしに困り、病に苦しむ方を見ました。あの方たちの暮らしを助けるには何ができるのか、私に何ができるのか学びとうございます。」
続いて、ヤスキが立ち上がった。
「私は、港の賑わいに驚きました。そして、多くの人夫が働き、たくさんの荷を運んでいるのを見て何だか胸が躍る思いでした。それに、あの海まで続く水路。立派な水門。大船。ヤマトにはない光景ばかりでした。あそこで学びとうございます。」
続いて、ヤチヨが立ち上がる。
「私は、春日の杜で幼子たちとともに田畑を耕し、米や青菜を作り、御厨を担っております。ここには、見た事もないような食材がたくさんありました。ここに残り、多くの国の食材について学びとうございます。」
「そうか・・其方たちは、ここへ残りたいのだな・・。他の者はいかがする?」と摂津比古が訊く。
続いて、ヨシトが立ち上がる。
「私は、年儀の会で伺った、西国の米の融通や池作りの様子を知りとうございます。ヤマトでも、米の作不作があり融通しあいますが、それが大きな国同士でどのようになされるのか、見たいのです。できれば、アナト国にも行って、さらに九重の事も知りたいのです。」
「ほう・・其方は大きな夢を持っているようだな。では、其方は、アナト王タマソ様にお預けしよう。良いかな?」
摂津比古は、タマソに訊ねる。
「良いでしょう。ヨシト殿は、誰よりも書ができると聞いております。御承知のように、私はどうも不得意ゆえ、助けてもらえるとありがたい。だが・・アナトや九重となると、しばらく戻れないが、覚悟されよ。」
タマソは、そう言って、快く引き受けた。
最後にトキオが立ち上がる。何か迷いがあるようだった。
「怖れながら・・私は迷っております。」
「どうした?良いのだ。アスカケは自ら決める事。無理強いされるものではない。」
と、モリヒコが声を掛ける。
「いえ・・そうではなく・・年儀の会で、出雲の国や東国の話を聞きました。出雲や東国から攻めされたら、大きな争乱になります。もちろん、それに備え、私も弓も剣の腕も磨いてまいりました。ですが、これまで、先のヤマト争乱の話を何度も聞き、戦は起きてはならぬものだと考えております。ですから・・・私は、出雲の国へ行って、この目で何が起きているのか見てきたいのです。」
トキオの答えに、一同が驚いた。
「良いでしょう。」と返答したのは、山背の国のムロヤだった。
「私と共にまずは山背の国へ参りましょう。出雲の国は広い。北国からアナト国の境まで広がる大きな国です。どんな国なのか、何が起きようとしているのか、ヤマトの未来を担う若者が知ることは大事な事です。トキオ殿は私がお預かりいたします。」
「それでは、タケル殿、チハヤ殿、ヤスキ殿、ヤチヨ殿は、この摂津比古が預かりましょう。ヨシト殿はタマソ様に、トキオ殿はムロヤ様にお願いいたします。」
一通り、それぞれの道が決まったところで、御簾の奥に隠れるように座っていたカケルが顔を見せた。アスカも御簾の中にいた。
カケルは、タケルたちの座っている広間中央まで歩いて、皆の前に座った。そして、一人一人の顔をじっくりと見て、ゆっくりと口を開いた。
「あなたたちは、皆、ヤマトの大事な宝。そして、ヤマトの未来。私が、アスカケに出た時代は混沌とした世の中で、あちこちに争いがあり、貧しく苦しい暮らしの民ばかりでした。今、ヤマトの国々は平穏で豊かになり、多くの民は安心して暮らせるようになっています。しかし、この難波津の大路の裏で、あなたたちは苦しむ人を見つけ、何か力になれることはないかと努力した。おそらく、ヤマトの国々には、光の届かぬところで苦しむ人がもっといるはずです。あなたたちには、その一隅を照らせる光になってもらいたい。」
カケルは、立ち上がり、御簾の方を向いた。
御簾の中から、アスカ皇がゆっくりと立ちあがり、皆の前に進み出た。そして言った。
「これより、1年の時を使い、自らのアスカケを探してください。」
0008.jpg

nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント