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2-8 度量衡 [アスカケ外伝 第1部]

それから数日後、タケルは、筋割りと顔役の報告を兼ねて、摂津比古とともに大路を回ることとなった。大路を歩きながら、摂津比古にタケルは進言した。
「摂津比古様、大路では、大陸から来た者たちが、金や銀の重さをものさしにした取引を広げております。大路の館を回って、そのものさしが店ごとでまちまちで困っているとの話がありました。中には、悪用している者もいるようです。手を打たねばなりません。」
「うむ、金や銀の取引での諍い事は承知している。同じ金の量で、取引する米の量が倍近く違ったとも聞いた。如何すれば良いであろう。」と摂津比古が尋ねる。
「大陸から来た者に聞きましたが、大陸の国には、度量衡という決まり事があるというのです。宮にあった書物にも同様の事が書かれておりました。この難波津でも、これを定めてはいかがでしょう。金や銀と米を交換する時の目安を定めるのです。」
と、タケルが答える。
「なるほど・・それで公平な取引になり諍いもなくなる・・良かろう。その定めをタケル殿に任せよう。次の難波津の会までにまとめ、皆に諮るとしよう。」
「承知しました。・・それと、もう一つ。難波津には、大陸からも多くの者が集まってきております。特に、韓ではまだ戦が絶えず、逃げ来る者もいるようです。また、敵対する国の館もあり、難波津の中で諍いが起きるかもしれません。」
「だが、大陸でのことを、我らは知る由もない。皆、我が国の諸国のごとく、信頼し助け合う事が出来ればよいのだが・・・。」と摂津比古。
「難波津の会に、参集しない者もいるようです。何か良い策はないかと思うのですが・」
と、タケルが言う。
「摂政様なら、どうされるであろうな?」と摂津比古が答えた。
タケルは、ふいに父の事を切り出されて戸惑った。確かに、父ならどうするか、アスカケの旅の話を思い出しながら、タケルは考えていた。
「まあ、それほど急がずとも好かろう。じっくり策を考えてみようではないか。」
と摂津比古は言った。
その日の夜、夕餉を終えて片づけをしている時、「相談があるんだが・・」と、タケルは皆に言った。チハヤ、ヤチヨ、ヤスキが食台の周りに集まった。ジウやヤスもそこにいた。
タケルは、難波津の取引で起きている諍いの事を皆に話し、目安を定めたいがどのようにすればよいかと訊いた。
「西国の国々では、確かに、米俵の大きさはだいたい一緒だな。船に積み込む時、同じ大きさでないと困るからな。」とヤスキが言う。
「お米を炊く時も、升(ます)を使って量るけれど、確か、1升の大きさは決まっているわよ。稗3杯で米1升とか、豆なら同量とか、目安を決めているから。それと同じようにするってことよね。」
と答えたのは、ヤチヨだった。
「しかし、金とか銀とかは、随分小さいものなんだろう?豆一粒ほどの大きさの金で、米1俵にもなるとも聞いたが、その金も大きさがまちまちで、中には紛い物もあるみたいだ。」とヤスキが言う。
「それじゃあ、揉め事になるのも当然ね。」とヤチヨが呆れた顔で言う。
「薬事所では、薬草を調合する仕事があるの。何種類かを混ぜて効き目を強めるそうなの。その仕事はかなり難しくて、鍛錬した人だけで行うのだけど、その時、異国から手に入れた『秤』というのを使っているわ。」
とチハヤが言った。
「その『秤』というのはどういうものなんでしょう。」とタケルが訊いた。
すると、チハヤが自分の部屋に戻り、1冊の書物を持ってきて、広げた。
「これが『秤』。」
示したところには、絵が書かれていた。いわゆる『天秤ばかり』だった。
「片方に錘を乗せて、片方に薬草を置くの。両方が同じ重さで釣り合うの。」とチハヤ。
「錘?」とヤスキが問うと、「これよ。」と指さす。
絵には、小さな四角い塊がいくつも並んでいる。タケルも覗き込むようにして、その構造や大きさ等を想像していた。
話を聞いていたジウが、「それ・・ウンファン様の館にある。」と言った。
「なんだって?・・そうか・・一度、話を聞きに行こう。」とタケル。
「それなら、こんなものもあるわ。」とヤチヨが部屋に戻って、何か長い棒を持ってきた。
「これは、大きなものの重さを計るのに使う、竿秤というの。こっちに重い石をひっかけて、片方の笊に計りたいものを乗せて、釣り合うところの印を見ると判る仕組み。これなら、いろんな館に置いてあるはず。」
「ああ・・それなら、俺も港で見たことがある。器用に使っていた。」とヤスキ。
「それらを使って重さや量を計ったとして、例えば、米と金、米と銀、米と布を、どの量で取引するかという目安がなければ、諍いになるという事なのだが・・・。」
と、タケルが呟く。
「一つ一つ決めるのは難儀なことだぞ!」とヤスキ。
「やはり、皆が持っているものを基準にするのが良いだろう。米なら大抵同じだし、升の大きさ、俵の大きさもほぼ決まっている。それと・・・」
タケルは考えた。
大和の国々であれば、稗や粟、豆、布等、多様な物の取引には米との割合だけで充分だろう。しかし、今、揉め事の原因は、金や銀などだ。ならば、やはり、金と米の取引の目安を定めればよいのではないかと。
「皆、ありがとう。正しく秤を使った取引を行うように定め、さらに、米と金の取引の目安を決める事にします。あとは、館を回って、皆が納得できる目安を聞いてみます。米と金の目安が決まればきっと、おのずと他も決まるはずだから。」
と、タケルは言った。
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