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2-12 決め事 [アスカケ外伝 第1部]

その日の夕餉を終えて、タケルは、自分の部屋でひとり悶々としていた。
弁韓のシンチュウの振舞い、船の奴隷、何とかしなければという思いがぐるぐると頭を巡るばかりで、出口が見つからない。父カケルはアスカケの最中、このような人物と出会ったことはなかったか、その時、父はどうしたか・・幼い頃から聞いてきた父の話を思い出しながら、答えを求めていた。
「タケル!ウンファン様が参られたぞ!」
小部屋の扉の向こうで、ヤスキが声を掛けた。
館の玄関には、ウンファンとジウが待っていた。タケルは、二人を食堂へ通すと、ヤスキやヤチヨ、チハヤ、ヤスも現れた。
「タケル様、同胞が捕らえられているというのはまことでしょうか?」
ウンファンが切り出した。港での光景をジウはウンファンに話していたのだ。
タケルは小さく頷くと、隣にいるヤスキを見た。
「ええ、きっとそうです。酷い扱いを受けて、あれでは、命を落とした者もいるに違いありません。何とかしなければ・・。」と、ヤスキが答えた。
「やはり、そうですか・・。先日、館に着いた者に訊いたのですが、ひと月ほど前に、弁韓の兵が村を襲い、逃げ遅れた者が多数いて、囚われてしまったとの事でした。おそらく、そうした者達に違いありません。」
ウンファンは、悔しそうに言った。
「女人や子どもたちはどうされているのでしょう?」とヤチヨが訊いた。
「おそらく、王宮に連れて行かれて、召使いや下働きをさせられているのではないかと思います。いずれにしても、人間として扱われてはいないはずです。」
ウンファンの言葉に、ジウが涙を溢し始めた。
「船を襲い、捕まっている人を救い出そう。港の人夫も、あの扱いには頭に来ている。手伝って貰って一気にやれば大丈夫だ!」
とヤスキが立ち上がって言った。
「それならば、わが同胞も加勢します。船にはおそらくわずかな兵、これまでの恨みもありますゆえ、皆、賛同するはずです。」とウンファンも言った。
「ついでに、あのシンチュウの館も襲えばいい!あんな不条理な取引を堂々とする輩は、この難波津から追い出すべきだ!」
ヤスキはいよいよ勢いがついたようだった。
「いや、ダメだ!」
タケルは、ヤスキとウンファンに向かって強く言った。
「摂津比古様は、遠く韓の事を我らヤマトの者が知る由もなく、今しばらく、時をかけて考えよと申された。・・シンチュウ殿は、王命でここへ来たと申された。ここでの諍いは、ヤマトと弁韓の諍いと同じ。そうなれば、ヤマト諸国を巻き込むことになる。」
タケルは話しを続けた。
「でも、一日も早く、船に囚われている方々をお救いせねば、御命に関わる事態にもなりかねないでしょう?薬事所でお会いした方も随分衰弱されている様子でした。何とか、お救いしたいのです。何か策はありませんか?」
と、チハヤがタケルに訊いた。タケルは答えに困って腕組みをしている。
「あの・・」とヤスが口を開いた。
「どうされたの?ヤス様」とヤチヨが訊く。
「実は・・以前、宿主の使いでシンチュウ様の館へ品物を受け取りに参りました。その時、奥の蔵に連れて行かれたのですが・・・その蔵の前に兵が数人立っておりました。もしかしたら、船だけでなく、館にも囚われた人がおられるのではないでしょうか?」
ヤスが言う。
「船に蔵・・それほどの人を囲い、ただ、奴隷として使うというのは・・少し変だな・・。」とヤスキが呟く。
「以前、辰韓に居た頃、弁韓では捕虜にした男たちを兵として使うと聞いたことがあります。そうやって、戦の先鋒には捕虜にしたものを使い、自国の兵は無傷で戦に勝つのだというのが、弁韓の戦法だとか。」
ウンファンが思い出したように言った。
「では、シンチュウはこの難波津で戦でも起こそうというのか?」とヤスキ。
「いや、シンチュウは商人です。戦を起こすとは考えにくにのですが・・」
とウンファンが返した。
「だが、あれだけの者を集めているのは何か事を起こすつもりなのかもしれませんね。」
と、タケルが言う。
「囚われている者のことは心配ですが、もう少し内実を調べた方が良いのでは・・」
ウンファンが、タケルに問うように言った。
「そうですね・・私も、摂津比古様に御相談したいと思っています。事を荒立て、難波津で大きな騒動になるのは得策ではありません。」
タケルはそう言うと、ヤスキを見た。
「そうか・・ならば、私はシンチュウの船の様子をもう少し調べてみよう。どれほどの人が囚われているのか・・できれば、その方達と連絡が取れないか・・そうだ、ジウ様、少しお手伝いいただけませんか?」
ヤスキはそう言って、ジウを見た。ジウはこくりと頷いた。
「では、私は、弟と一緒にシンチュウの館の様子を調べてみましょう。」
ヤスが答える。
「韓国の者として、シンチュウの所業は赦せません。何としても、懲らしめねば・・。我らも、シンチュウの動きに目を光らせましょう。」
ウンファンも応えた。

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