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2-13 怪しげな男 [アスカケ外伝 第1部]

次の日の朝、タケルは、宮殿に向かい、摂津比古に接見し、これまでの経緯を話した。
「そうか、シンチュウの所業は、衛士や民部からも幾度か聞いては居ったのだが・・。」
摂津比古は憂鬱な面持ちで口を開く。
「あやつは、倭国と弁韓の友好を深めたいという弁韓の王の書状を持参しておったので、こちらも丁重に応じ、館も与えたのだが・・。儂の判断に甘さがあったか・・。」
悔いる様な口調で摂津比古が言う。
「いえ・・摂津比古様、おそらく摂政様も同じことをされたはずです。倭国の安寧のためには、海を越えた国々とも友好であるべきです。それよりもこれからどうすべきかを考えねばなりません。」
タケルは、摂津比古の言葉を聞き、自分に言い聞かせるように強く言った。
「今、皆でシンチュウの動きを探っております。何か良からぬことが起きる前に手立てを打ちましょう。・・摂津比古様、一つお願いがあります。」
「なんだ?」と摂津比古。
「これまで、韓国の戦を逃れて多くの辰韓の人が海を渡って来られているようです。難波津に着く頃にはもう疲れ切って、命を落とされている方もいる様なのです。できれば、明石や吉備、安芸、アナトの国の皆さまへ、こうした方々をお助けするよう、使いを出していただけませんか?」
「それは容易い事。おそらく皆も心得ているはずだが・・すぐにも、使いを出しておこう。それと、韓の国の様子も知らせてもらう事としよう。」
摂津比古との接見を終えて、タケルは、自分たちの館に戻った。
それから、数日、皆で手分けして、シンチュウの動きを探っていた。ヤスキとジウは港の人夫達と共に、シンチュウの船の様子を探りながら、中に囚われている辰韓の者と連絡を取れないかと試みていた。
ヤスとカズは、宿主スミレに事情を話して、シンチュウの館への用事を作ってもらい、幾度と館を訪れては様子を探った。
ウンファンは、館にいる辰韓の者達に、裏通りや路地で何か不穏な動きがないかを探っていた。
タケルは、大路に館を構える国々の人間に、事情を話し、シンチュウの館との取引をやめるよう説得して回った。
そんなある日、ヤスの弟カズが、タケルたちの館に飛び込んできた。
「シンチュウの館に、怪しげな男たちが来ました!」
カズは、ヤスと共にシンチュウの館に行き、屋根伝いに、シンチュウの館の奥にある蔵の隅に隠れて、様子を探っていたのだった。
「館の裏の堀に、船が着き、男たちが3人程、館に入っていきました。赤い服を着た大きな男が椅子に座って、大声で何か言ってました。シンチュウは立ったまま、その男にペコペコ、頭を下げていたから、きっと叱られていたんだと思います。」
カズは息も継がず一気にまくし立てた。
館には、タケルとヤスキ、ジウが居て、驚いた表情でカズの話を聞いていた。
「それから?」とヤスキが訊く。
「その後、すぐに、また船に乗って出て行きました。」とカズ。
「船はどっちへ行った?」
と、ヤスキが訊くと、カズは急に悲し気な表情を浮かべて、おろおろしながら答えた。
「判りません・・姉やんが、すぐにタケル様に知らせておいでって言ったから・・。」
「それで、ヤス様は?」とヤスキが訊くが、カズは俯いたままだった。
「まさか・・その男の後を追うなんてことはないだろうが・・・・」
ヤスキは呟くように言った。
それを聞いて、タケルが言った。
「ヤスキ、すぐに港に行き、船を出してもらうんだ。」
「わかった!」
ヤスキは慌てて、館を駆けだしていった。ヤスキは船を出す理由をはっきりと判っていた。万一、ヤスが男の後を追っていったとすれば、男たちの船に紛れているに違いなかった。見つかれば殺されるかもしれない。一刻も早く、男たちの船を見つけなければならなかった。
「カズ様、よく知らせてくれました。でも、もう少し、詳しく訊かせてください。その男はどんな身なりでしたか?」
「赤い服を着ていました。それに、大きな高い尖った帽子を被って、黒い髭を胸まで伸ばしていて・・・それと、大きな剣を下げていました。」
カズの話を聞いていたジウが言う。
「たぶん、そのひと・・ショウグン・・そう・・将軍。一番偉い人。」
「将軍?・・まさか、兵を率いているというのか?」
と、タケルが確認するようにジウに訊く。
「ウンファン様から、聞いたことが・・ある。赤い服は偉い人が着る服。」
ジウの返答を聞いて、タケルは最も恐れていた事が近づいているだと直感した。
「私は、すぐに摂津比古様のところへ行きます。カズ様、すまないが、ジウ様と共に、ウンファン様のところへ行ってください。そして、カズ様が見たことをもう一度、ウンファン様に話してください。」
タケルはそう言うと、すぐに宮殿に向かった。

兵士.jpg
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