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1-5 長島の戦 [アスカケ外伝 第2部]

護衛役として同行していたサスケは、安濃津に着いてから、別行動をしていた。そして、数人の衛士と共に、サスケがタケルとヤスキの前に現れた。
「タケル様、お話があります。」
サスケは、周囲に注意を払いながら、低い声で言った。
他の者には聞かせたくない内容のようだった。館に行くのもどうかと考え、安濃津のはずれの海岸に行くことにした。
一同は、岩陰に隠れるようにして、車座になった。
「サスケ様、お話とは?」とタケルが切り出す。
「我々は、津の港に着いてから、郷の者から、此度の戦について話を聞いて回りました。」
サスケは、話の内容を確認するように、伴の衛士たちの顔を見てから、話を続けた。
「郷の誰もが、この戦について何か違和感を持っているのです。敵が誰なのか、定かでないというのです。」
「東国との戦であるというのは間違っているかもしれないという事ですか?」
タケルが訊くと、サスケは少し迷いながら答える。
「東国ではないのではと・・これまで、熱田や枇杷島、萱津、津島の沖合で、幾度か戦となったようですが、いずれも、大高や知多、渥美の水軍との戦なのです。東国と言えば、やはり、遠江や駿河の軍勢がいてもおかしくない。しかし、その姿が全く見えないのです。なぜ、戦うのかさえ判らぬまま、戦をしているように思えて・・何かおかしな力が働いているように感じます。」

この時代、伊勢湾を取り巻く地は、現在のように広大な濃尾平野はなく、岐阜・稲葉山近くまで海が来ていた。 そして、木曽や長良、揖斐の大川が流れ込み、一帯は広い湿地帯になっていた。 川が運ぶ土砂によって、広い中洲が作られていて、田畑には十分な土地であったが、大川の増水の度に、水に浸かる為、小さな集落が幾つかできている程度だった。 その中でも、もっとも広い中島と呼ばれる中州には、大きな集落ができていて、湿地帯全体を治める頭領の館もあった。現在の一宮辺りと推定される。 他にもいくつか、高みを持った中洲ができていて、清州、枇杷島、萱津、沖ノ島、津島、長島などと呼ばれていた。伊勢から安濃津を経て、桑名から、こうした中州を使いながら、東の熱田や大高へ向かうことができた。 広い湿地帯の東には、丘陵地が広がっていて、その先が、小牧、豊場、守山、山崎、星崎、岩崎などと呼ばれていた。それぞれに小さな集落があった。その中でも、熱田の郷は、古来より、伊勢とのつながりが強く、丘陵地の多くの郷を従える頭領とされていて、知多の衆や渥美の衆とも親交があり、勢力を強くしつつあった。 東南には、大高の丘陵地があり、それを超えると三河国となっていた。ここには、西の一族と東の一族があり、度々諍いを起こしていた。東の一族は、木曽や伊那などの国々とも親交があり、自らの領地を「穂の国」と呼んでいた。 大高からさらに南には、知多の山が広がっている。そして、さらに南側には渥美の大島があった。知多の先端と渥美の先端、そしてその先は、伊勢の玄関口、鳥羽まではそれほど遠くなかった。水運によって、伊勢の国は、美濃や尾張、三河と繋がっていたのだった。

サスケの話を聞いていた衛士の一人が口を開く。
「私はけがをした兵から話を聞きましたが、相手は、知多や渥美の者なのは確かなのですが・・船縁から見る兵たちは、こちらの船を見て、恐れおののくような表情を浮かべていたと言うのです。」
「それは不思議だな。」とヤスキが相槌を入れた。
「ヤマトを侵そうと考えるような敵ならば、伊勢の軍船を見て、恐れおののくというのはあり得ないでしょう。」
とサスケも言った。
「それは私も感じていました。あの、戦の跡を見ると、敵は必死に抵抗した様子でした。死に物狂いで戦っている。それは、まるで、自らの国を守るためではないかと・・・。この戦の背後には、何か正体の知れぬ者がいる様な気がします。」
カケルも応える。
「まだ、確証はありませんが・・誰かに操られていると考えた方が良いかもしれません。」
サスケは慎重に答える。
「そうならば、戦の裏で蠢いている者を見つけ、退治すれば、この戦は収まるかもしれません。」
とタケルが言う。
「判りました。では、我らは、一足先に、熱田や三河の国へ向かい、この戦の実情を探ります。」
とサスケが言った。
「では、我らは、一旦、伊勢へ行き、その後、熱田へ向かいましょう。」
タケルたちは相談の末、サスケ達とここで別れる事にした。十名程のサスケ達の一行は、すぐに、船を手配して、熱田へ向かった。
タケルとヤスキは、一旦、ミムラの館に戻ることにした。
館では、チハヤとシルベが引き続き怪我人の手当てに奔走していた。
サスケ達との話をホムラやミムラにすべきかどうか、タケルは悩んでいた。ホムラはすんなりとは受け入れないに違いない。兄を慕うミムラはどうか。これまで、東国による侵略と決めつけてきた事を覆すだけの証拠はまだない。タケルは、今は、このまま、伊勢へ向かう事に決めた。
「おお、戻られましたね。」
館の玄関で、ミムラが待っていた。
「三日後には、兄たちは、伊勢の宮に戻るとの事です。」


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