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1-21 熱田からの知らせ [アスカケ外伝 第2部]

そんな話をしている時、郷からイラコがやってきた。
「熱田から、タケル様に使者が参っております。」
すぐに使者は、館に招かれた。
「私の名は、サトルと申します。」
サトルは、タケルたちと同じく春日の杜で学んでいた、年はタケルたちより二つほど下であった。タケルに対面したサトルの衣服はボロボロだった。戦を潜り抜けてきたのはすぐに判った。随分疲れている様子だった。
「渥美国に神の力を使う者がいるという話が、熱田辺りまで伝わっており、きっと、タケル様の事だから渥美に居られるはずだ、とサスケ様が言われ、まかり越しました。お会いできて良かったです。」
サトルは安堵した表情を浮かべて言うと、その場に座り込んでしまった。
「小さな船で何とか福江に辿り着いたようです。港で少し休まれるよう進言したのですが、一刻も早くタケル様に会いたいと申されましたので、お連れしました。」
イラコが、サトルを支えながら言った。
「少し、休ませてあげましょう。」
タケルが言うと、館に戻ってきたチハヤが駆け寄り、すぐに手当てを始めた。サトルは、座り込んだまま気を失っていた。館の一室に移され、侍女が手当をした。
夕刻近くになってから、ようやく、サトルは目を覚ました。サトルは、はっと起き上がり、再びタケルの前に傅いて頭を下げた。
「もう良いのですか?」
タケルが訊くと、深く頭を下げた。
「ご苦労様でした。・・それで、熱田の郷はどうでしたか?」とタケルが問う。
「熱田の郷は・・、」
サトルは、そこまで口にして、悔しそうな表情を浮かべて、涙を溢した。
「酷い戦があったようですね。」
と、タケルが言うと、サトルは涙を拭い、キッとタケルを見て言った。
「熱田は、知多の水軍に敗れました。」
それを聞いて、ミムラが、無念そうな顔で、ゆっくりと口を開いた。
「やはり、そうか・・・・。」
「ミムラ様には予見されていたという事ですか?」
と、ヤスキが問うと、ミムラは話し始めた。
「もともと、熱田の郷辺りは小国の集まり、水軍を持つような大国ではありません。知多や渥美、伊勢との親交の中で、山奥の郷へ産物を送る役割を担う事で成り立っておりました。戦が始まり、その役は果たせず、熱田から、美濃までの郷も産物が届かぬようになり、苦労しておりました。・・知多の水軍が本気でかかれば打ち破る事など容易だったでしょう。我ら伊勢は、そうならぬよう、彼らと共に戦って居ったのです。」
「では、ホムラ様が長島から戻られた時の様子から、こうなると・・。」
と、ヤスキが訊く。
「これほど早くにとは思っておりませんでしたが・・おそらく、我らが渥美で、イソキを倒したことで、戦いを急いだのかもしれません。」
ミムラは答える。
「それで、今、熱田は?」
と、タケルが訊く。
「知多水軍の大将が、熱田に乗り込み、頭領たちを捕らえました。そして、戦に勝った証にと、頭領の姫を人質にし、大高の郷にいるようです。」
「人質を取り、服従させたという事か・・。」
と、話を聞いていたシルベが言った。
「それで、サスケ様達はどうされていますか?」
と、タケルが訊く。
「サスケ様達は、熱田の軍に居られましたが、敗戦が決まると、すぐに、東へ向かわれました。鳴海の郷を抜け、知多へ向かうと言われました。それと、本当の敵は穂の国ではないかとも言われました。仲間が数人、穂の国へも向かっております。」
サスケの話を一通り聞くと、ヤスキが言った。
「タケル様、この先、いかがしますか?」
タケルは迷っていた。
戦はさらに深刻な事態に向かっている。この戦の張本人を突き止め、一刻も早く、成敗しなければならない。おそらく、穂の国こそが戦の元凶に違いない。だが、知多一族を止めなければ、ようやく落ち着いた渥美も危うい。戦火はさらに広がる。
考え抜いた挙句、タケルはミムラに言った。
「ミムラ様、まずは、一度、伊勢国へお戻りください。この先、伊勢にも火の粉が降りかかるかもしれません。まずは守りをしっかりしていただきたい。」
タケルが言うと、
「承知しました。」とミムラは頷いた。
「ハルキ様、きっと知多の水軍は、次に渥美に攻め入るに違いありません。すぐに、備えねばなりません。・・穂の国の事は気掛かりですが、万一、渥美国まで熱田のようになってしまえば、ようやく訪れた安寧が危うい。」
ハルキは頷き、答えた。
「知多の水軍が攻めてくるとすれば、師崎から、篠島伝いに、まずは、福江に向かうはず。手元にある軍船を、明日にも福江に向かわせましょう。」
翌朝、タケル、ヤスキ、チハヤ、シルベは、渥美の軍船に乗り込み、福江に向かった。
ミムラは、タケルの言葉通り、伊勢の宮に向けて戻って行った。

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