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1-20 国作りの始まり [アスカケ外伝 第2部]

次の日から、渥美国の再建に向けての話し合いが始まった。
頭領ハルキの願いもあり、ヤマトの仕組みを基本にすることになった。
「ヤマトでは、年儀の会というものがあります。諸国の王や頭領、長などが集まり、自国の事や隣国、周辺の様々な事を話しあい、困っていることがあれば我が事として解決のために力を合わせます。」
タケルは、初めに年儀の会について話した。
「なるほど・・渥美ならば、郷の長達を集め、話を聞き、助け合う方法を見つける場を持てばよいのか・・。」
「それだけではなく、できれば、伊勢国や知多、熱田などの諸国からも使者を招き、自国では解決できない事はもっと多くの力をもって取り組むことができれば・・。」
「ならば、ヤマトからも使者をお呼びできると良いな。そうだ、私も、その年儀の会に出させていただきたい。・・タケル様、是非、摂政様にお願いしていただけぬか・・。」
「判りました。きっと喜ばれるはずです。倭国全体の様子も判りますし、渥美にない知恵や技術も見つかりましょう。」
ヤスキは、難波津の町で諸国が取引をしている様子や港の仕組み、紀の国が災害からどうやって復興していったかの話をした。
「我が渥美の悩みは、水不足だ。高い山もなく、川も少ない。日照りが続くと、たちまち干上がり、作物は育たない。それゆえ、穂の国に縋るしかなかった。」
頭領ハルキが言う。ヤスキは、年儀の会で聞いた、讃の国の事を思い出した。
「西国でも、水不足で困っていたと聞きました。讃の国には、コボウという者が池作りを広げて、水不足を克服したとか・・・。ヤマトからも学びに行きました。その知恵を使えば、渥美でも水不足に困らなくなるかも知れません。」
「それは心強い。是非とも、その知恵を我らにも授けていただきたい。」
頭領ハルキは目を輝かせて聞いた。
チハヤは、薬草作りや、春日の杜について話した。
「こどもは国の宝です。多くを学び、さらに新しい考えを生み出す力を持っております。大人も、子を教える事でさらに知恵を持ちたいと思います。そうした場を、この渥美でもお作り下さい。」
「学びの場か・・・。」と、頭領ハルキは答える。
余り浮かない答え方だったので、ミムラが言った。
「伊勢の国でも、ヤマトに倣い、学びの場を作っております。何も難しい事を教えるわけではありません。学びたい事は子らが見つけます。漁の技を学びたい者、館作りを身につけたい者、作物作りや薬草作り・・様々なことに子らは興味を持ち、熱心に学びます。少しずつで良いのです。そういう者を育て、また、その者が舎人となり子らを教える。そうして、国は強くなります。」
熱心に語るミムラを見て、タケルはサスケを思い出していた。
話し合いの合間には、館の外に出て、ハルキから吉胡の郷周辺の様子も聞いた。北には、穂の国が見える。東に目を遣ると、低い山並みがずっと遠くまで続いていた。
「ハルキ様、あの山の向こうは?」
タケルが訊くと、ハルキはまっすぐ指さしながら答えた。
「あの山並みの向こうには、遠江の国です。浜名の海をぐるりと回り、遠く、駿河へと繋がっているのです。私もまだ行った事はありませんが、穏やかな国だと聞いております。」
やはり東国がヤマトを攻め入るというのは間違いなのだと確信した。
ミムラとヤスキは、館の庭に居た。
「ミムラ様は、戦に長けていらっしゃるのですね。」
ヤスキが唐突に訊いた。ミムラは庭を流れる川面を眺めていた。
「いえ・・そんなことは・・。」
ミムラは立ち上がりながら答える。
「私も難波津で船を操る術を学んできました。あの海戦では、見た事もないような船の操りでした。それに、弩の設え。韓の船に投石機があるのは見ましたが、弩が設えてあるのは初めてでした。」
ミムラは、ヤスキの言葉を聞き、少し躊躇いがちに答えた。
「私は、伊勢国の頭領の第二子。頭領を継ぐのは、兄ホムラと定まっておりました。ですから、私は十五の時、自分の居場所を求めて、国を出て、諸国を回りました。」
十五と言えば、アスカケに出る歳。
「鳥羽での郷で小舟を調達し、南へ、志摩や勝浦、ぐるりと回り、紀州にも行きました。もちろん、難波津にも行ったことがあります。その先の西国にも。船の操縦はその時覚えたものです。弩の仕掛けは、アナト国で見ました。それらの知恵を持ち帰り、あの船を作りました。・・まさか、本当に戦に出ることになろうとは思いもしませんでしたが・・。」
「確か、長島の戦はホムラ様が行かれていたはずですが・・。」とヤスキ。
「元来、兄は、陸の戦が得意でした。船はあまり好まない。初めのころは私が戦に出ておりました。ですが、幾度戦っても、戦は止まない。・・怪我人や死人が増えるばかり・・何とか戦を止めたくて、ヤマトに縋ったのです。」
ミムラは遠くを見つめて言った。
「しかし、ミムラ様は、都では大軍をと申されておりましたが・・、」とヤスキ。
「私は、西国を回った時、あちこちで摂政カケル様と皇アスカ様の偉業をお聞きしました。対立があっても、力でねじ伏せるのではなく、真摯に向き合い、判りあい、対立を避けて手を取り合う事を第一に考えておられる。そういう御方なら、私の本意を判って下さると信じておりました。」
「では、結果的に、私たちが遣わされた事は・・」
「はい。私の望み通りでした。いえ、それ以上です。タケル様の特別な御力を知り、ますます、お近くにいてしっかり見定めたくなりました。ヤスキ様もそうでしょう。」
ミムラに問われてヤスキも頷き、言った。

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