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1-14 脱獄 [アスカケ外伝 第2部]

一方、別の牢に入れられたタケルたちは、脱獄の機会を窺っていた。
「イソキという者はやはり長殿が話されていた通りであったな。」
ミムラは、壁の小さな明り取りの窓から、外の様子を見ながら言った。
「ええ・・この戦は、あのイソキの企てなのでしょうか?」
カケルは、見張りの衛士の様子を伺いながら呟く。牢の柱の隙間から手を伸ばせば届きそうなところに、剣が置かれていた。衛士がじっとこちらを見ているため、手を伸ばすことはできない。
「渥美の大将のようだが・・それほどの知恵者とは思えないが・・。」
ミムラは、小窓の縁を丹念に調べながら、応える。
同じ牢に入れられたイラコは、床や天井を隈なく調べながら、言った。
「イソキは穂の国から遣わされた者ですが・・実は、その前に、穂の国から来た者がおります。・・亡くなった頭領は、渥美の郷の娘を娶り、子をもうけましたが、産後の肥立ちが悪く、すぐに亡くなり、後妻にと、穂の国の王の妹君であるイカナヒメが参られました。そして、頭領が亡くなると、すぐに、イソキノミコトが参り、後見人として国を治めるようになったのです。」
「では、渥美国は、穂の国の者が治めているのとかわらぬではないか。」
と、ミムラが言う。
「もともと、穂の国を頼らねば食い物にも困るわけですから、やむを得ない事です。戦が起きるまでは、静かな国でしたし・・。」
イラコは呑み込むように答える。
「ありました!」
不意にイラコが言う。
「ここの板を外せば・・」
イラコはそう言いながら、壁の板を外そうとするが、動かない。どうやら、館を設えた時、牢を後から作ったため、板壁になっている箇所があったようだった。
「何をしている!」
物音に気付いた衛士が、剣を構え、血相を変えてやってくる。
タケルは牢の柱の隙間から腕を伸ばす。淡い光が指先と剣を繋ぐ。すると、タケルの剣がキラキラと光り始めた。その光に、たじろぐ衛士の隙をついて、タケルは剣を掴むと引き抜く。眩い光が一面を照らすと、タケルの体が一回り大きくなり、獣人へ変化した。
タケルは、力任せに牢の柱をへし折ると、牢から出た。ミムラもイラコも後に続く。大きな衝撃音が館に響き、異変に気付いた衛士たちが集まってくる。
集まってきた衛士たちは、見た事もない異様な人影に、恐れおののき、中には腰を抜かして座り込む者さえいた。
タケルは、衛士たちを睨み付け、剣を一振りする。空気を切り裂く音が響き、廊下の灯りが消え、真っ暗になる。そこで、タケルが吼えた。不気味な声が館に響く。衛士たちはすっかり戦意を無くし、座り込んだままだった。
「ここで騒ぎになると不味い。逃げましょう。」
ミムラが言うと、タケルが壁に拳をぶつける。大きな音とともに穴が開いた。衛士たちが集まってくる前に、タケルたちは牢を出て、裏山へ逃れた。
別の牢にいたヤスキとシルベにも、大きな音が聞こえた。ヤスキはすぐにタケルがやったことだと気付く。
「さあ、ここから逃げましょう。」
ヤスキは、侍女たちに促す。
だが、床に伏せっている男を置いて逃げる事は出来ないと拒んだ。
「仕方がない。」
シルベは、そう言うと、男を背負い、牢を出る。シルベは。背負った男が、まだ、少年と思うほど小さく、軽い。手足はか細く、生きているのが不思議なほどと、感じていた。
そこからは、ヨウジが先導し、床下を通って、裏山へ逃れる道を案内する。幸い、衛士たちは、タケルたちの牢へ向かっていて、手薄だった。館の床下から顔を出す。辺りは真っ暗だったが、ぼんやりと月明りがあり、なんとか足元は判る。ヨウジは、裏山深く、皆を案内する。追っ手は来ていない。
館から裏山へ上ったところに、小さな沢があった。ヤスキたちは、とりあえずそこで休むことにした。シルベは背負っていた男をゆっくりと降ろす。すぐに数人の侍女が取り囲み、様子を見る。他の侍女が、沢から水を汲み運んできた。
「この方はどなたですか?」
侍女たちが落ち着いたところで、ヤスキが訊く。
「この方は、ハルキ様と申され、我らの頭領様でございます。」
少し年配の侍女が悲しげに答える。
「頭領様が・・何故?それに、まだ頭領と呼ぶほどのお歳ではないようだが・・。」
とシルベが訊く。
年配の侍女が答える。
「すべては、イカナ様の悪行なのです。先の頭領の後妻として、穂の国より参り、ハルキ様を、牢へ入れ、満足に食事も与えず、病気と言っては怪しげな薬を飲ませられ・・・」
侍女はそこまで言って涙ぐみ、言葉を詰まらせた。
沢の周囲で、ガサガサという音が聞こえた。
「隠れよ!」
ヤスキが言う。皆、岩や草の影に身を潜めると、沢の向こうから男たちが草を分けながら現れた。タケルたちだった。イラコの案内で、牢から抜け出し、やはり、この沢を目指してきたのだった。
「タケル様!」
ヤスキが呼ぶ。
「ヤスキ殿、無事だったか。」
沢の周りで、車座に座り、それぞれに聞いた事、見た事を話した。

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