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1-17 海上の戦い [アスカケ外伝 第2部]

「よし、反転する。皆、何かに掴まれ!」
ミムラの号令で、伊勢の軍船は、大きく主舵を切る。船体がきしむ音がする。舳先にはヤスキがいた。
「ヤスキ殿、弩(大弓)を使ったことはあるか!」
「はい。一度、難波津で。」
「ならば、頼む。舳先の木戸を開けば、弩があるはず。敵船に打ち込め!」
ミムラは戦になれているように感じた。
言われるまま、ヤスキは木戸を開く。見事な弩がある。それを舳先に引き出す。男数人でギリギリと弓を引く。飛ばす矢は人の腕より太い。難波津で、弁韓の船を射抜いた時の事を思い出しながら、ヤスキは軍船の帆柱を狙う。”ヤマトの軍船”の真後ろについた。
難波津では陸から弩を発した。しかし、揺れる船の上では、なかなか的が定まらない。それでも、後ろについた伊勢の軍船の舳先から、”ヤマトの軍船”の兵の顔が判るほどになれば、何とか、当てる事がかなうほどになった。
「今だ!」
ヤスキは一気に弓を引く縄を切る。轟音と共に、鉄の矢が飛んでいく。
追い風の中、矢は勢いを増すように飛び、ドーンという轟音と共に、”ヤマトの軍船”に当たった。帆柱を狙ったが、少しそれて、船体を貫いた。弓を構えていた兵たちは、その衝撃で甲板に転がった。船の中では、将らしき男が転がった兵たちを殴りつけ、態勢を立て直そうとするのが見えた。
「弓を放て!」
ミムラが号令する。伊勢の軍船から無数の矢が飛んでいく。何人かの兵が矢に当たり倒れる。反撃する様子はない。
”ヤマトの軍船”の船縁にいた、将らしき男は、その様子を見て何か叫んだ。すると、”ヤマトの軍船”は、急に、取り舵で大きく向きを変える。そして、帆を張って、速度を上げる。敗走する様子だった。
その様子を見て、ヤスキがミムラに叫ぶ。
「逃げられるぞ!」
ミムラはそれを聞き、答えた。
「良いのです。このまま戦えば、こちらも怪我人が出る。深追いせぬ方が良い。」
”ヤマトの軍船”はどんどん遠ざかる。
「しかし・・また、仕掛けて来るかもしれぬ。ここで叩いておけば・・」
と、シルベも言う。
「いえ、根源はあの船ではない。まずは、イソキを倒し、渥美を正しき国に戻す事です。真の敵は、あの船です。」
ミムラが、東の方角に視線を遣る。数隻の軍船が距離を置いて止まっている。
戦況を眺めていたイソキは、あっけなく”ヤマトの軍船”が敗走していくのを見てたいそう悔しがった。そして、兵に命じた。
「我が渥美を侵そうとする、悪しき国伊勢の軍船を攻撃せよ!」
兵たちは体勢を立て直した。そして、船を進める。イソキの軍船の他、伴船二隻も続く。
「イソキの船が来るぞ。気を抜くな!」
ミムラが号令する。
ヤスキはすぐに弩の支度にかかる。シルベは兵たちとともに、弓を構える。
徐々に、距離が縮まっていく。三隻と一隻、数で勝ち目はない。真正面からイソキの軍船が来る。この状態では、弩は使えない。何としても背後につきたかった。徐々に近づく。舳先の兵の顔がはっきりと判別できるほどになった時、双方の船が主舵を切り、船体がぶつかるほどの近くを通過する。
「矢を放て!」
双方から、雨のように矢が放たれる。それぞれ数人は当たり倒れる。通過した後、さらに舵を切り反転する。だが、そこには、敵の伴船がいた。やや小ぶりは軍船から矢が放たれる。伊勢の軍船は、応戦する。何とか、離れると、今度は、イソキの軍船が襲ってくる。圧倒的に不利な状況だった。
「いかん。このままでは駄目だ。・・あの伴船だけでも止められれば・・。」
ミムラが言う。その時だった。もう一隻の伴船が、なぜか、同じ伴船を攻撃し始めた。
「どうしたんだ?」
ヤスキが船縁から様子を探る。伴船にはタケルの姿があった。甲板からタケルが叫ぶ。
「この船は我らが落とした!」
タケルとイラコは、岩陰から近づき、停泊していた伴船に気付かれぬように乗り込み、伴船の長を縛り上げ、味方にしていたのだった。
見る間に、タケルの乗った伴船は、もう一つの伴船に横づけする。タケルは、一気に乗り移り、迫る兵を剣で払いながら、長を探している。あまりの勢いに、兵たちは怖気づき、抵抗をやめる。中には、海に飛び込む者さえいる。瞬く間に、その船も手中にしたのだった。これで、一気に形勢が逆転した。
イソキはまだ気づいていなかった。反転し、再び、伊勢国の軍船に近づいた時、味方の伴船が、伊勢の軍船に並んでいるのに気付いた。
「伊勢の船を捕らえたか?でかした。」
イソキは勝ったものだと思い込み、ゆっくりと船を進める。
伊勢の軍船では、ヤスキが弩の構えをしていた。
「まだまだ・・。」
徐々に近づくイソキの軍船。イソキが操舵室の上で、ふんぞり返っているのが見える。
「よし、今だ!」
ドーンという轟音が響く。鉄の矢はまっすぐに飛んでいき、見事に帆柱に命中した。メリメリという音と共に、柱が傾く。射貫いた鉄の矢は、そのまま、甲板を貫き、大きな穴をあけた。イソキは、腰を抜かしその場に座り込んだ。何が起きたのか判らぬ様子で、兵たちも逃げ惑っている。

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