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1-18 イソキ敗れる [アスカケ外伝 第2部]

ミムラとタケルは、すぐに、イソキの軍船に乗り込み、イソキや兵たちを縛り上げて、福江の港へ戻った。
「怪我人はこちらに!」
港にはチハヤがいた。船が着くと、すぐに、敵、味方関係なく怪我の治療を始めた。郷の者も手伝った。
戦況を見守っていた頭領ハルキも、長達と共に港に来ていた。イソキや側近は、荒縄で縛られ、頭領の前に突き出された。
「イソキよ、如何すればよい?」
頭領ハルキは、穏やかな口調で訊く。それは、イソキに自らの罪を認め、自らの処遇を考えさせるものだった。
「私は、渥美国のため、頭領様のために今日まで奮闘して参りました。すべては、悪しき国ヤマトから、我が国を守るための事。このような仕打ちを受ける謂れはありません。」
イソキはあくまで自らの罪を認めようとはしない様子だった。
「ならばなぜ、我を地下に幽閉した?」
「幽閉などと・・体調が思わしくないとお聞きし、安らかなる場所でと申しつけておりましただけ。おそらく、それは侍女たちの陰謀に違いありません。」
言い逃れだけは長けている。
「私が死ねば、頭領の跡を継ぐ者がおらぬ。そうなれば、穂の国がこの渥美を手中にすることができる、そう企んだのであろう。」
「滅相もない。我が渥美は、穂の国の支えがなくては成り立ちません。懇意にしておくことが肝要。イカナヒメ様の輿入れも、先の頭領が考えられた故のこと。見誤ってはなりません。」
「さすがに、イソキ殿は口が立つ。」
とミムラが言うと、イソキはきっとミムラを睨み付ける。しして、悲しげな顔をして、ハルキに向かって言った。
「ハルキ様、ヤマトの陰謀に乗せられてはなりません。怪しげな術を使い、人心を惑わす皇子こそ、悪の張本人。あやつを捕らえねばなりません。ハルキ様も、きっと、あやつの術に操られておいでのはず。早く、正気にお戻りください。」
イソキのあまりの言い訳に、頭領も居並ぶ者達も呆れ果てた。
「悔い改めるつもりはなさそうだな。」
頭領ハルキが言う。
「首を刎ねましょう。」
福江の長が容赦なく言うと、イソキは震えあがった。元来、肝の小さい男である。
「どうか、命だけは・・・」
と、イソキが懇願する。
「お待ちください。」
そう言ったのは、タケルだった。
「我らは、この戦を一刻も早く終わらせたいと大和から参りました。渥美との戦はこれで決着がつきましたが、知多ではまだ続いております。それに、あの怪しげな軍船がいつ現れるか判りません。この者の首を刎ねたところで何も変わりません。」
タケルの言葉に、頭領が訊く。
「ではどうするのが良いでしょうか。」
「しばらく、吉胡の館の牢に入れておきましょう。いずれ、この戦を仕掛けた張本人が動き出し、この者と連絡を取るでしょう。敵を炙り出さねば、この戦は終わりません。」
タケルの提案に、頭領の長も賛同し、頭領はタケルたちを伴って、吉胡の郷へ戻ることにした。吉胡へ戻ると、館は、すでに、もぬけの殻になっていた。
イカナヒメは、イソキが敗れた事を知ると、闇夜の中、僅かな者達と吉胡の港から穂の国へ逃れたのだった。
「穂の国がこの戦の張本人だろう。」
ヤスキは、館で夕餉を食べながら呟いた。タケルも頷く。
「だが・・確証がない。」
「これだけのこと、穂の国以外には考えられぬ。すぐに穂の国を攻めるべきだろう。」
と、ヤスキが続けると、ミムラが応じて言う。
「いや、こちらから仕掛ければ、結局、ヤマトが、穂の国を侵すことになる。それでは、きっと敵の思う壺だ。」
ミムラが言うと、他の者も頷く。
「あの軍船の事だが・・」
と、タケルが切り出す。
「あの旗印は、古の大和のものだった。おそらく、物部氏の残したもの。きっと、この辺りに、物部氏とゆかりのある者が潜んでいるに違いない。」
「物部氏?」とヤスキが驚いたように言った。
それを聞いて、シルベが口を開く。
「はるか昔の事で、確証はございませんが・・・難波津を攻め惨敗した時、多くの兵は命を落としましたが、将の中には逃げ延びた者がおりました。もしかしたら、その残党がこの地まで辿り着いたとも考えられます。」
「いや・・それにしても、遥か昔の事・・」とヤスキ。
「確かに遥か昔かもしれませんが、こうして私は生きております。若き将であれば、まだ、充分に・・」とシルベが言う。
「では、その者がヤマトへの復讐をするため、戦を企てたのだと・・」とミムラが言う。
皆の会話を聞きながら、タケルは、父カケルから聞いた「難波津の戦」の事を思い出していた。それは、大和争乱の中でも、最も酷い戦いで、シルベのように、戦の意味も分からず兵として招集され、劫火に巻かれて多くの者が命を落とした。父カケルも、あの戦は悔いているようだった。負けた将の悔しさはもっと深いに違いない。その者が物部氏の旗を持ち、穂の国や渥美、知多へ戦を仕掛けたという事は間違いのない事だろう。だが、その者はどこにいるのか、それを知りたいと考えていた。

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