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1-28 男たちの密談 [アスカケ外伝 第2部]

明け方近く、空が白み始めた頃、外で物音がした。ぐっすりと眠っていたタケルだったが、物音に気付き、枕元に置いていた剣をそっと手にした。同時に、サトルも起きていた。サトルは、タケルの方を向き、静かにというようなしぐさを見せた。そして、静かに起き上がると、土間に降り、そっと外の様子を見る。
森と館の境界あたりに、イカヅチが居た。
そして、数人の男がイカヅチを取り巻き座っている。サトルはそっと聞き耳を立てる。
「イカヅチ様、御用でしょうか?」
男の一人が頭を下げ、囁くように言った。
「ヤマトの皇子が、今、館に居られる。」
イカヅチの言葉に、取り巻く男たちが騒めく。
「よいか。これは、天の思し召しに違いない。我らの行く先は明るい。何としても、我らの味方につけるのだ。」
「これから、いかがされますか?」
音が指図を待つように訊く。
「じっくり考えようではないか。せっかくの好機。まあ、儂に任せろ。」
イカヅチは、男たちに向かってそう言うとにやりと笑った。
サトルは、聞き耳を立て、一部始終を聞いていた。だが、イカヅチの意図するところは判らなかった。
「タケル様・・どうやら、何か、裏がありそうです。真偽を確かめた方がよろしいかと思います。私は、あの者達を追って参ります。」
サトルの言葉を聞き、タケルも同様の事を想像していた。昨夜の話が真実なら、わざわざ隠れるようにして、男たちと話す事もないはずだった。
「判りました。急いで行って来てください。それと、イソカの軍の動きも調べてみてください。渥美や伊勢が危ういようなら、サトル殿は、それを伝えてください。」
「しかし・・それでは・・。」
サトルは戸惑っていた。
「大丈夫です。明日朝までに、サトル殿がここへ戻られぬ時は、イソカの軍が動き始めたのだと判断します。おそらく、イカヅチ様も何か動かれるはず。・・私は、イソカの軍を少しでも足止めできるようにします。」
「それなら、野間の長をお尋ねください。大高からの水軍が、渥美へ向かう前には、必ず立ち寄る港だと聞きました。野間の民は、まだ、イソカの軍を快くは思っていないようです。何か、力になってくれるかもしれません。」
「判りました。・・」
タケルはそう言うと、サトルを裏口から外へ出した。
暫くすると、イカヅチは戻ってきた。タケルは起き上がり、待っていた。
「おや・・お早いですね。」
イカヅチは、少し慌てた様子を見せた。
「イカヅチ様こそ、こんな朝早くどちらへ?」
「いや・・朝餉のために草を摘みに行っておりました。」
確かに、イカヅチの手には籠一杯の野草が摘まれている。
「さあ、朝餉に致しましょう。」
そのうち、ヤスキも目を覚ました。
傍には、ヒナ姫が居て、ヤスキの肩を支え、身を起こすのを手伝っている。
イカヅチは、そんなヒナの様子には、どこか関心がないかのように、朝餉の支度をし、皆に、膳を出した。ヒナ姫とは、特別な関係であるはずだが、妙によそよそしい感じがした。
「おや、サトル様はどうされましたか?」
イカヅチが訊く。
「朝早く、渥美へ行かせました。無事、大高近くまで来た事と、イカヅチ様たちにお助けいただいたことを、渥美へ知らせるように命じました。」
「ほう・・しかし、朝餉を済まされてからでも良かったのでは?」
「いえ、明日朝には、戻れるようにとサトルも申しておりましたゆえ、日の明けぬうちに行かせました。」
「そうですか・・。」
イカヅチは何か思うところがあるようだったが、それ以上は何も言わなかった。
「イカヅチ様、ヤスキが養生している間に、私は、やはり、大高へ向かおうと思います。せっかく安寧を取り戻した渥美が再び戦となるのは何としても止めたいのです。そのためには、イソカに遭わねばなりません。」
朝餉を終えて、タケルはイカヅチに切り出した。
「そうですか・・しかし、大高の館は、戦に備えた強き砦。イソカに会うのは容易い事ではありません。それより、民を集め、時を見て、一気に砦を攻めた方が容易いかと思いますが・・。」
イカヅチの言葉には、何か、戦を起こしたいという気持ちばかりが感じられた。
「いえ、それでは私がここへ来た事が無駄になります。なんとか、砦の中へ潜り込む手引きしてくれる者をさがしてもらえませんか?」
タケルの言葉にイカヅチは困ったような表情を浮かべながら答えた。
「判りました。探してみましょう。少し時間が掛かるかもしれませんが・・。」
イカヅチはそう言うと、朝餉の片づけをした。
ひと仕事を終え、イカヅチは「しばらく館を留守にする」と言って出て行った。
タケルは、留守の間に、館を抜け出す事も考えたが、ヤスキが動けない以上、無理はできない。暫くは、イカヅチの言葉に従うほかないと決めていた。

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