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水槽の女性-2 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

「ええ・・これほど残忍な殺し方はありません。そして、その一部始終を映像に残して、ネットにアップしている。極度の猟奇性をもった犯罪者なのでしょう。」
剣崎は表情を変えずにさらりと言った。
「犯人は?」と一樹。
「映像だけではとても。・・特殊犯罪課も、サイバーテロ対策本部と協力し、闇サイトを追跡しましたが、予想通り、世界各地のサーバーを経由していて、最終的には中国のサーバーに辿り着きましたが、具体的なところは判りませんでした。」
剣崎は、またも、表情を変えずに説明する。
「その被害者の特定は?」と一樹。
「不明です。顔認証システムでも照合しましたし、行方不明者リストとも照合しましたが、一致する人物はありませんでした。」
と、剣崎が答える。
「日本人なのでしょうか?」と亜美。
「いえ・・それすら判らないのです。ただ、目の前に、女性が殺される映像があったという事です。」
「作り物だということも考えられるのではないのですか?」
と、一樹が訊いた。
それを聞いて、剣崎が少し微笑んだように見えた。
剣崎は一樹の問いには答えず、いきなり、レイに向かって話しかける。
「シンクロと呼んでいるのですよね?他人の精神と同調し、考えや気持ち、場所を特定できる能力があるのだとか・。」
剣崎の言葉には少し疑念が感じられた。レイは小さく頷く。
「以前、橋川市と豊城市で発生した連続殺人・・いえ、結果的に自殺だったという事件と、北海道十勝一家惨殺事件とを関連づけ、解決した一件を知りました。特殊犯罪対策課でも、あの事件の経緯に注視していたのです。公安部も絡んだかなり大掛かりな捜査でもあったわけですが、私が気になったのは、捜査経過でした。」
剣崎アンナの話の真意がつかめないまま、一樹たちは剣崎の話を聞いている。
「捜査途中、通常の手法では知り得ない情報が突然入ってくる。特に、北海道では、真犯人への接触まで実に早く、被害者の救出も見事でした。大量の捜査員を投入しても成し得ない事だと思いました。・・そこで、ここには何か重要な人物がいるのではないかと考えたわけです。」
剣崎は、一樹が抱える疑問に答えるように、一樹を見ながら続ける。
「公安部の富田刑事をご存知ですね?・・彼とは一時、ともに仕事をしていたことがあるんです。もちろん、彼は大先輩ですが、緻密さと大胆さは今でも健在のようでした。彼から、事件の経緯をお聞きしたのです。」
そこまで話すと、今度はレイの方を見て言った。
「事件の鍵は、レイさん、あなただと聞きました。シンクロという特殊能力を使って、事件の闇に辿り着く重要な情報を入手できたのだと・・・もちろん、俄かには信じられませんでした。富田刑事も直接的にその様子を見たわけではなかったようでしたから・・。」
そこまで聞いて、一樹は嫌な予感がした。
「そこで、あなたの能力が本物なのか、実験する事にしました。毎日、同じ時間に映像を映し、あなたがこの映像から思念波というのを捉えることができるのか・・結果、あなたは5日目にここに辿り着いた。あなたの能力は間違いない、本物だと判りました。」
「剣崎さん、回りくどい言い方ですね。」と、一樹が口を挟んだ。
剣崎は、少し不機嫌な表情を浮かべて一樹を見る。
「あなた方、特殊捜査課では、この映像は入手したものの、捜査の糸口さえ掴めていない。藁をもすがる思いで、こんな大掛かりな事をしたのでしょう?そして、レイさんの能力がなければこれ以上進展はない、そうわかっているのでしょう?」
一樹は少し強い口調で剣崎に迫った。
「矢沢刑事が言われる通りです。この映像から、あなたが、思念波というのを感じここに来たという事は、この映像は本物だという事でしょう。それなら、猟奇殺人が現実のものと言えます。しかし、私たちはこれ以上の捜査が進められない。あなたなら何か別の情報を見つけてくれるのではないかと考えたのです。ご協力いただけませんか?」
それを聞いて、亜美が口を開く。
「そんな・・・レイさんはこれまでこの能力のせいでどれだけつらい思いをしたのか・・事件に巻き込まれ、経営している病院も大変な状態だったんですよ。・・彼女は警察官ではない、一般人です。捜査に巻き込むなんて・・。」
「わかっています。しかし、あなた方も同じことをされていたのでしょう?」
剣崎は亜美をたしなめるような言い方をする。
「それは・・。」と亜美が言葉に詰まった。
「この映像を見る限り、犯人は異常者でしょう。それに、単独犯とは考えにくい。だいたい、闇サイトでこんな映像をアップしているというのは、何か、そういう殺人の請負のようなものなのではないのですか?それなら、この捜査はかなり危険なものになる。そんなことに一般人を拘わらせるなど、言語道断です。警視庁としてもこのような捜査手法は認められないでしょう。」
一樹は、剣崎に返すように、強い口調で反対する。これを聞いて、剣崎は、険しい表情を浮かべて毅然と言い放った。
「特殊捜査課は、通常の操作方法では解決できない犯罪に対して、特別に作られた部署なのです。どのような捜査を行うかは、全て私に任されています。時には、それが法律に違反する行為であっても、結果的に事件を解明し、被害を最小限に留める事が出来ればそれでいい。それが我々の使命なのです。」
一樹は驚いて言葉がなかった。
「それからもう一つ、矢沢刑事と紀藤刑事は、本日付けで、特殊捜査課への出向となりました。おそらく、今頃、橋川署長あてに、警視庁から通知が届いているはずです。この瞬間、あなた方は私の部下ということです。」
「そんな無茶な・・。」
一樹は言葉がなかった。


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