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水槽の女性-4 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

署に着くと、まっすぐに署長室に向かった。深夜12時を回っていて、署内は静かだった。最上階にある署長室は、灯りがついていた。
「戻りました。」
一樹がドアをノックしながら言った。
「ああ・・入りなさい。」
紀藤署長は、一通の書類を見ながら答えた。
「あの署長・・」と一樹が言い掛けた時、紀藤署長が制止した。
「警視庁から至急のファックスが来ている。矢沢刑事と紀藤刑事、本日付で、警視庁特殊捜査課へ出向となった。」
そう言って、一樹と亜美を見るが、二人とも動じていないようだった。
「もう、剣崎警視とは会ったようだな。」
「はい・・例の思念波の正体は、特殊捜査課の剣崎警視の企てでした。・・闇サイトの殺人事件の捜査に加わるように指示を受けました。」
一樹は少し腹立たしい表情を浮かべて報告した。
「そうか・・闇サイトの殺人事件・・・どうやら難解な事件のようだな。・・レイにも捜査協力の依頼があったのか?」
紀藤署長は、これまでの経過から事態を了解したようだった。
「ええ・・レイさんのシンクロ能力が必要なの。でも、私たちは反対したの。でも、レイさんは協力するって・・どうしよう。」
亜美は、刑事というより、紀藤署長の娘の立場で発言しているようだった。
「そうか・・。」
紀藤署長はそう言うと、署長の椅子にどっかりと座り込んだ。そして、目を閉じ腕組みをし、考え込んでしまった。
「どうやら、我々の責任のようだな・・・。」
「ええ・・」と亜美。
「一樹、亜美、二人で必ずレイさんの身の安全を確保するんだ。万一、危害が及ぶようなことがあれば、一樹、お前の命に代えて守るんだ。良いな!このことをルイさんが知れば、心配するに違いない。ルイさんには私から説明しておく。良いな。」
紀藤署長は厳しい表情を浮かべていた。

翌朝、一樹と亜美は、昨夜の廃工場にやってきた。もちろん、レイも一緒だった。昨夜乗り込んだ「黒い大型のバン」が3台、そして、もう1台、全て黒塗りの「大型トレーラー」が停まっていた。
「これが私たちの仕事場よ。」
トレーラーの助手席が開いて、剣崎アンナが姿を見せた。昨夜と同様、黒スーツ姿にタイトなスカートを身につけている。
「さあ、話は中で。」
剣崎はそう言うと、トレーラー後方のコンテナのドアが開き、ステップが降りてきた。中に入ると、昨夜見たバンの中にあった機材とは比べ物にならないほどのPCやモニター、通信機器が設置され、男二人が椅子に座って作業をしていた。
「さあ、こちらへ。」
作業スペースを抜けると、円卓があり、小さな会議室になっていた。壁には大型モニターがいくつも設置されている。
「よくこれだけのものが・・。」と一樹が感心して言った。
「私、昨年までFBIに居たの。警視庁から特殊犯罪捜査のオファーがあり、就任する条件として、FBIの装備一式を購入する事を要求したの。そんなもの、すんなり受け入れられるとは思っていなかったけれど・・日本の警察は随分と裕福みたいね。最高レベルの機器がすぐに調達されたわ。それに、優秀な捜査員もたくさん。今はここに10名ほどだけど、全国各地の警察に数名単位で配属されている。それほど、現在の犯罪が高度化し、これまでの捜査では追い付かなくなったという危機感を上層部も持っているのでしょう。」
剣崎は饒舌に話を続ける。
「さて、ここにレイさんがいらしたという事は、ご協力いただけるという事で良いかしら?」
剣崎はレイの手を取る。レイは小さく頷いた。
『ありがとう・・あなたの力がどうしても必要だったの・・』
『いえ・・私こそ・・少しでも剣崎さんの力になれれば』
二人は思念波で意思疎通を図っていた。
「では、これまでの経緯を説明します。・・始めて!」
剣崎はそう言うと、部下の一人に命じた。
「特殊捜査課の生方(うぶかた)です。主に、情報分析を担当しています。」
生方は、他の捜査員と比べて、猫背で青白い顔をしていて、とても捜査員とは思えない風貌だった。
「始まりは、サイバーテロ犯罪対策課で発見したこの画像でした。」
モニター画面に昨夜見た映像が、静止画の状態で写される。
「もとは、闇サイト・・EXECUTIONERというところにアップされていました。」
「エクスキューショナー?」と聞きなれない横文字に亜美が訊いた。
「ああ・・それは、死刑執行人という意味です。単なる快楽的目的や猟奇的満足を得るための殺人ではなく、罪を裁き処刑するという事なのでしょう。そして、処刑の様子を動画でアップして見せている。特に、正当性を主張することもない。とにかく、残忍な方法で、処刑しているというのが・・何か、おぞましくて。」
生方は、少し感情が高ぶっているように見えた。
「今でもアップされたままなのか?」と一樹が訊くと、生方は「いえ・・今は、何もアップされていません。というより、サイバーテロ犯罪対策課がキャッチした翌日には映像は削除されました。」と答えた。
「一般の人はそのサイトには入れるのか?」と一樹。
「いえ・・特殊なパスワードが設定されているようです。サイバーテロ犯罪対策課では、そういうパスワードを簡単に突破できる専門家はごろごろしていますから…僕も、もともとそこにいたんですが・・。」
生方は少し得意げだった。
「という事は、そのサイトは特定の人間しか見られない。いわば、処刑の結果を誰かに知らせているという事が考えられうるが・・。」
「ええ、そこで、サイトへのアクセスログを手に入れようとしたんですが・・そこでシャットダウンされてしまいました。サイト管理人もかなり高度なスキルを持っているようです。」

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