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2-19 雄一郎 [アストラルコントロール]

「いや、君は構わなくても僕は気になる。」
「どう気になるの?」
「僕も男だ。女性のあられもない恰好を見せられて、平静でいることはかなりストレスだ。」
「へえ、そんなふうに見てくれるんだ。・・署ではほとんど女扱いされていないから。事件捜査になれば、宿直室に何日も泊まることもあるし、女刑事というだけで、男の人は寄ってこないのよ。」
「もう、いいから。判った。君は女性ではなく、刑事だ。そうだ。そういうことだな。さあ、事件の話に戻ろう。」
零士はこういう会話を続けること自体苦手だった。
コーヒーとパンをもってテーブルに置いた。
「桧山の奥さんに聞いた、息子を閉じ込めておけという桧山氏に到底納得できるとは思えないが。」
「ええ、そうなの。心の病で、自分からひきこもるということは聞くことはあるけど、軟禁状態にするって、例えば、人に危害を与えるようなことがなければありえないでしょうね。」
「ということは、そうではなく、他人に知られたくないというメンツのほうが大きかったということになるな。」
零士がパンにジャムを塗る。それを五十嵐が手に取って食べる。
不思議なほどに自然な動きだった。
「知られたくないといっても、うつ病を知られたくないというのはあまりにも行き過ぎてるわ。他に何かあるはず。」
五十嵐がコーヒーを口にする。
「わあ、おいしい!零士さん、コーヒー淹れるの上手いわね。お店でもやれば?」
「馬鹿にするな。いつも行く喫茶店のマスターが勧めてくれた豆を使ってるだけだ。」
「へえ、そうなの。そのお店、今度連れて行ってよ。」
「ああ、かまわないけど・・さあ、それより、話を戻そう。実は、昨日、夢を見たんだ。」
「夢?」
五十嵐は驚いて言った。
零士の夢に自分が出てきたのかとちょっと期待して訊く。
「ああ、昨夜見た夢は、桧山艇の中だった。しんと静まり返った家の中に一人でいた。そしたら、外で物音がした。庭を見ると男の人影があった。その男は、塀を乗り越えて外に出て行った。」
「えっ?それってまさか・・。」
「ああ、おそらく、軟禁されているはずの雄一郎だろう。」
事件に関連した夢と分かって、五十嵐はちょっと残念な顔をしながら言った。
「でも、軟禁状態じゃ出られないはずじゃ?」
「ああ、だが、外にいた。離れのドアには鍵が掛ったままだった。それで、彼が出て行ってから、周囲を見たところ、庭の隅に小さな井戸みたいなものがあったんだ。きっと、そこから出入りしているのだろう。」
「離れから井戸まで抜け穴があるの?」
「おそらくそうだろう。昔からあったのか、彼が部屋に軟禁されて作ったのか、定かではないが、おそらく外へ出たいという強い思いがあるのは間違いない。」
五十嵐はパンを口にしながら、零士の話を聞いて、考えていた。
「彼が犯人だという証拠があればいいんだけど・・令状なしに桧山邸を調べるわけにはいかないし、抜け穴があったとしても、赤い髪の女性が桧山氏を殺したことを証明することには程遠いわね。」
零士は、五十嵐の言葉を聞きながら、もう一つ何か必要だと感じていたが、すぐには思い当たらなかった。
「赤い髪の女性が彼だと証明できればいいかもな。写真はないのか?」
「若いころの写真は見つかったんだけど、最近のものはないわ。」
「赤い髪の女性と彼が同一人物である証拠が欲しいな・・。」
もちろん、今までの捜査では、そうした証拠になるものは何一つ出ていない。
「もう、赤い髪の女性は出没しないだろうし・・。」
分析が行き詰まってきた。なんだか同じところをぐるぐると回っているようでじれったい。
「母親はどうだろう?彼について話は聞けないだろうか?」
「表立って話を聞くのは難しいわね。何しろ、ご主人を無くしたばかりだから。」
「お手伝いさんはどうだろう?」
「何か知ってるはずよね。身の回りの世話をしているのはお手伝いさんのはずだから。
「そうだな。

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