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2-20 コントロール [アストラルコントロール]

「でも、零士さん、どうして、そんな夢を見るのかしら?ある意味、都合のいい夢よね。」
五十嵐が言う通りだった。
自分の意思ではなく、大事な場面で、夢を見る。深層心理がなせる業とも思い難い。それは、はじめの事件の時から解き明かせない問題だった。
「ふーん。」
突然、五十嵐が、両腕を大きく伸ばして寝そべった。寛ぐにもほどがある。今の自分の恰好で寝そべるということは大胆すぎる。零士にまるで男を感じていないということなのか。
「おいおい。」
零士は、呆れてそう言うほかなかった。
寝そべった五十嵐を見ると、薄手のシャツ1枚にショーツだけ。ブラをつけていないようで、なんとなく透けて見えるように思えた。
零士は、「こいつは妹なんだ」と思うことにした。おそらく、五十嵐も自分のことを兄、あるいは、父親と思っているのだろう。出なければ、ここまで挑発的な態度は取れないはずだった。何といっても相手は刑事、警察官なのだ。そう言う道徳心はきっとはっきりしていて、何か手を出そうものなら、現行犯逮捕されかねない。
「零士さん、私って、そんなに魅力ない?」
零士の覚悟?とは裏腹に、五十嵐が切り出した。
「いや、それは・・。」零士はどぎまぎして何も言葉が出なかった。
五十嵐は身を起こした。
「正直に言うわ。私、零士さんが好き。自分でもわからない。見た目がいいとかお金持ちとか、背が高いとか、そういうことじゃなくて・・初めて会った時、・・そう、あの事件で被疑者扱いして取り調べをした後、事件解決まで一緒に動いたでしょ。零士さんと事件を推理することで、なんだかどんどん零士さんに引き込まれていく感じがして・・。」
刑事らしく、自分の感情を分析しているようだった。
「刑事だから、そんな感情はもうすっかり捨てたつもりだったんだけど・・自分でもわからない・・でも・・零士さんが好きなの。」
五十嵐は話しながら感情のコントロールができなくなったようで、涙を流している。
「落ち着いて。」
と、零士が五十嵐の肩に手を置いた。五十嵐がそれと同時に零士に抱き着いた。
「私のこと、嫌い?」
抱き着いたまま、五十嵐は零士の耳元で囁いた。
「自分のことをもっと大事にしなくちゃ。こんなことをしなくても良いんだ。」
零士はそういって、抱き着いていた五十嵐を離すと、じっと目を見た。
「僕も君のことが好きだ。どうしてだかはわからない。歳も10歳も違うし、おそらく、僕のことはおじさんだと思っているんじゃないかって思っていた。だか、知らず知らずのうちに、仕事じゃなく、これからも一緒にいたいと思うようになった。だが、これはいけない。こんなことで君を汚してしまうことはできない。さあ・・。」
五十嵐の目には未だ涙が残っていた。だが、想いが通じたと判り、笑顔を見せた。
「さあ、続きを話そう。・・その前に、服を着て。」
五十嵐は促されて、昨日来ていたスーツ姿になった。そして、テーブルの上にあったコーヒーを飲み干した。
「お手伝いさんに話を聞くとしても、いきなりはどうだろう?」
「警察ですと言って聴取するのはちょっと無理かも・・。」
「じゃあ、僕が話を聞くか・・・例の贈収賄事件の取材と称して、聞きだしてみよう。」
「お願い。私はもう少し、雄一郎の経歴や情報を集めるわ」
二人は朝食を終えて、アパートを出ることにした。
アパートの玄関口で、五十嵐は急に立ち止まる。
「どうした?」
と零士が近づくと、五十嵐が急に振り向いて、零士にキスをした。
「これくらいなら、良いでしょ?」
五十嵐は、困惑した表情の零士を見て、いたずらをした子供のような笑顔を見せた。
零士は、アパートを出ると、まっすぐに桧山邸に向かった。五十嵐は、署に向かって行った。

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