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2-21 張り込み [アストラルコントロール]

桧山邸の近くまで来た零士は、通りに警察車両が止まっているのを見つけた。
「見たことないな。・・例の贈収賄事件を調べている、2課の捜査員か?」
零士は気づかれないように、回り道をして公園の藪の中に潜んだ。
しばらくすると、お手伝いさんが出てきた。玄関前を掃除するのか、箒を持っている。じっと様子をうかがっていると、掃除をするふうではなく、周囲を観察しているようだった。警察が張り込んでいることを確認しているようだった。
「贈収賄に関する動きがあったのか?」
零士はスマホを出して検索してみた。特に新しい記事は出ていない。
「関係者から連絡でもあったということかな。だが、桧山氏はすでに亡くなっているのだから、今更、見張っていたって意味ないんじゃないか?」
この状態で、玄関先にいるお手伝いに近づくのはちょっと難しい。捜査員がやってきて妨害されるのは確実だった。しばらく様子を見る事にした。
しばらくすると、黒塗りのベンツが現れた。玄関前に止まると、車から、見たことのある人物が降りてきた。すぐに玄関の門が開いて、中から、お手伝いが出てきて、その男と付き人らしき人物を中に入れた。警察車両を見ると、大型の望遠レンズをつけたカメラでしきりに写真を撮っている。零士も構えていたカメラのシャッターを切った。
「確か、あれは、市議会議長の遠山茂、それに、付き添いはきっと秘書だな。何とも迂闊だな。贈収賄事件に関与していると証明しているようなものじゃないか。」
また、少し時間が経った頃、同じような高級外車が門の前に止まった。中から、先ほどと同じような恰幅のいい御仁が降りてきた。
「あれは、確か、国会議員の伊部信三。なんだか、かなりの大物が絡んだ事件のようだな。」
こちらも、すぐに写真を撮った。おそらく警察車両からより、零士のいるところのほうが仲が良く見える。特ダネとしての価値は高いだろう。
「殺人事件より、こっちのネタのほうがおもしろそうだな。」
零士は、週刊誌のフリーライターになる前、いっぱしの政治ジャーナリストを目指した時期があった。政界に渦巻く闇を暴き正義の鉄槌を・・という気概にあふれ、かなり危険な目にあったこともあった。
だが、そうした事件ネタには、必ず裏があって、情報をリークする側の意図に操られていることに気づいたとき、一気に、やる気を失った。
以降は、下世話なネタを追いかけるようになっていった。そのころからジャーナリストの肩書きは捨てた。
1時間ほど経過すると、高級外車が迎えに来て、先ほどの御仁は帰って行った。
「後の始末をどうするかを話したんだろう。警察にマークされていることを承知できたに決まっている。この後、事情聴取を受けたとしても、古くからの友人の死を知り、見舞いに来たのだと開き直って、会見を開いて釈明すれば、何もなかったことになるだけだろうな。伊部が絡んでいるのなら、警察だって簡単に逮捕というわけにはいかないだろう。噂にごちゃごちゃするなら先制して世間の見方を固定させればいい、とでも思っているに違いない。」
零士はこの先を読み落胆していた。
手元のカメラから、先ほどの画像を消去しようと画面を見た。
「おや、これは?」
画面の端、出迎えに出たお手伝いの後方に、男の姿がある。ほっそりとした体系で色白。
「雄一郎だな。昨日、夢で見たあの男だ。間違いない。・・そうか、父親が亡くなって、軟禁状態が解かれたんで、屋敷内をうろついているってところか。」
そこに、五十嵐から連絡が入った。
「雄一郎氏の経歴でわかったことがあるんだけど・・。」
「そうか、こっちも収穫があった。」
「じゃあ、どこかで・・・私の部屋に来て。」
五十嵐が電話を切った。零士はちょっと戸惑っていた。朝の出来事について、どう処理してよいか、何もなかったことにはならないし、触れないのもおかしい。だからと言って、急になれなれしくするのもちょっと違うのではないか。
そんなことを考えながら、五十嵐のマンションへ向かった。

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