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2-23 離れの部屋 [アストラルコントロール]

「こいつか?」
零士は五十嵐に写真を見せた。
「ええ、そう。大柄で陽に焼けている。手首に金色のブレスレッドをしているって聞いたから、間違いないわ。」
写真の奥には、小さく雄一郎の姿も映っていた。
次の写真では、先ほどより雄一郎の姿が大きくなっていて、それを見て驚いている伊部彰吾の表情もはっきりと分かった。写真を撮った時は、父親の伊部信三にばかり気を取られて気づかなかった。そこから数枚飛ばして、帰りがけの伊部の写真を開いた。
伊部彰吾の姿がない。ということは、あのまま、桧山邸に残ったということか。
零士は考えた。写真をじっと睨みつけ、五十嵐から聞いた話も頭の中に放り込んで、頭の中でかき回すようにして考えた。
「どうしたの、零士さん?」
零士はふっと意識を失ってしまった。
気づくと、桧山邸の庭にいた。また、夢を見ている。
庭には誰もいない。家の中も静まり返っている。伊部彰吾は帰宅しただろうか。そんなことを思いながらふと離れの部屋を見た。塞がれた窓の隙間から明かりが見えた。零士は、すーっと離れに近づく。そして、鍵のかかったドアをすり抜けて中に入った。
部屋の中には誰もいなかったが、明かりがついていて、先ほどまで誰かがいたという空気を感じた。
「この部屋のどこかにきっと抜け道があるはずなんだが・・。」
零士は部屋の中を探したが、モノに触れることはできない。外観を見るしか判断のしようがない。
いたずらに時間が過ぎていく。
窓の下に机が置かれていた。机の上には、登山の装備を身に着けた、若い男女が映った写真が置かれていた。そして、その中の数人の顔は切り取られて抜けていた。
「登山サークルの写真だな。切り抜かれたのは、例の男たちだろう。やはり、単なる事故ではなさそうだな。」
そこでぱっと夢から覚めた。
「大丈夫?」
眼を開けると、五十嵐の顔が間近にあった。
「ああ、大丈夫だ・・。」
零士は起き上がり、コーヒーを飲んだ。
「夢を見ていた。例の離れの中にいた。やはり、登山サークルの出来事は単なる事故じゃなさそうだ。桧山雄一郎は、一緒にいたという伊部と遠山をかなり恨んでいるようだった。だが、理由まではわからなかった。それと、部屋には鍵が掛っていたんだが、雄一郎は居なかった。やはり、あの部屋からの抜け道があるようだ。」
「どうする?」と五十嵐が訊く。
「桧山邸の前には、捜査員がいる。正面から入るのは難しいだろうな。」
「ねえ、部屋には雄一郎は居なかったって言ったわね。」
「ああ、いなかった。」
「家のほうには?」
「さあ、わからない。だが、ずいぶん静かだったのは確かだ。」
「なら、外にいるとは考えられない?」
「ちょっと待て。」
レジはそう言うと手帳を広げた。
そこにはこれまで調べたことがびっしりと書き込まれていた。
「ああ、これだ・・。これは、桧山邸のごみ袋から拾い出したレシートの記録だ。並べてみると、ほら、火曜日と金曜日の深夜にコンビニに行っている。ほとんど習慣のようになっているだろう。今日は火曜日だ。もしかしたら、コンビニに行ったのかもしれない。」
「そうね、きっとそうよ。」
五十嵐がそう言って時計を見る。夜11時を回ったところだった。
「行こう。」
すぐに二人は、桧山邸近くのコンビニへ向かった。
真っ暗な中に、コンビニ店の明かりが浮かんでいる。

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