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6-2 暗号の様な祖類 [マニピュレーター(シンクロ:同調)]

「どうしたの?亜美さん。」
暫く、亜美が返答をしないでいるので、リサが代わりに答えた。
「実は・・これと同じ様な書類を見たんです。」
リサの答えに、今度は、ルイが驚いた表情を見せた。
リサは、そう言って、持ってきた鞄を開けて、磯村健一から預かった書類の束を机の上に出した。そして、件の書類を差し出した。
文字の大きさや形は違うが、それは紛れもなく、同種であると判断できた。
「これは、IFF研究所、常務理事だった磯村勝氏が持っていたものなんです。」
ルイは二つの書類を机に並べ、しげしげと見つめる。
「もし、これが、研究に関する何かの記録だとすると、やはり、父の研究を知っている人物・・磯村勝氏は、神林教授の助手だったと考えるのが妥当でしょう。」
リサが言うと、ルイも亜美も頷いた。
「どういう内容か判りませんか?」
と、ルイが訊く。
「いいえ。暗号だとしても、読み解くキーワードさえ判りません。」
リサの言葉に、ルイは、残念そうな表情を見せた。
リサが続けて言う。
「でも、一歩前進です。IFF研究所と神林研究所のつながりが判りました。やはり、磯村勝氏は超能力の研究のために、IFF研究所を開いたに違いありません。」
亜美がようやく口を開く。
「磯村勝氏は、今、どうされているの?」
と、ルイが訊く。
亜美は、IFF研究所で起きた火事や事故、役員の自殺といった経緯をルイに話した。
「磯村勝氏には、私たちも会っていません。息子という健一さんから伺った話なのですが。勝氏は、精神を病んでおられ手、正常な会話ができないということでした。」
「そう、それは御気の毒な事ですね。でも、どこか、仕組まれたような話なんですね・・。」
ルイはそう言いながら、机の上に広げられた磯村健一から預かった書類にふと視線をやった。
書類の中に、写真の様なものを見つけた。
「これは?」と、ルイが書類の束から、その写真を引っ張り出した。
「ああ、それは、IFF研究所の落成時に撮られた記念写真のようです。その中央に写っているのが、磯村勝氏だと思います。」
亜美が答える。
「ちょっと待って・・。」
ルイはそう言って、先ほどの神林研究所の写真を取り出して、並べた。
「この人が、磯村勝氏だと言ったわよね・・。」
ルイが再度確認するように亜美に言う。
「ええ、そうです。」
そう答えた亜美も、写真を見て違和感を感じた。
古い写真で随分年齢的な違いがあるとしても、神林研究室で助手をしていた磯村と、IFF研究所の磯村勝氏が同一人物とは思えなかった。背格好や顔立ち、ほくろ、髪の毛・・あまりに違い過ぎていたのだ。
「これは別人ね・・。」
ルイが口に出した。亜美もリサも小さく頷く。
「どういうことでしょうか?」
リサが、ルイや亜美に訊く。二人とも困惑した表情を浮かべていた。
しかし、すぐに、ルイは、地下室の隅にある扉の付いた書棚に向かった。
「どうしたんです?」とリサ。
ルイは何も言わず、書棚の前に立つと、首元にしていたネックレスを取り出し、鍵穴に入れてまわした。扉を開くと、そこには、様々なファイルがびっしりと並んでいた。ルイはその中から、色が変わったいかにも古そうなファイルを取り出した。それから、ファイルの中を調べ始めた。
「ああ、あったわ。」
暫くして、ようやくルイが振り向いて1枚の写真を掲げる。
「これを見て!」
その写真には、若き磯村勝とよく似た顔の男性が写っていた。だが、笑顔はない。それは、書類の右上に貼られた身分証明の様な写真だった。
「これは?」と亜美が訊く。
「これは、私がイプシロン研究所にいた頃の研究記録の一部です。」
「研究記録?」とリサが言う。
「これは、イプシロン研究所にあった被験者の記録なんです。本来なら持ち出し禁止の書類なんです。でも、彼についてはどうしても気になることがあって・・」
ルイが答える。
「被験者?」
今度は、リサが訊く。
「ええ、彼の名前は伊尾木哲。日本から連れてこられた被験者でした。」とルイが言う。
「研究者ではなく、被験者?そんな・・。」と亜美。
「当時、私たちの様な能力を持つ者は、大半が精神異常者とされて、精神病院や矯正施設へ強制的に入院させられていたんです。その中から、特殊能力があるとみなされた者は秘密裏に、イプシロン研究所へ移送され、研究対象とされていました。」
「そんなことが許されるのですか?」とリサ。
「勿論、今ではそれは赦されない事でしょう。しかし、あの頃は、精神障害による犯罪も多発していて、社会的にはそういう風潮がまかり通っていましたから・・。今でも、全くないと言えばうそになるでしょうね。・・」
ルイは哀しげに言い、さらに続けた。
「私は、自分の特殊能力を隠して通して、研究者となれましたが、移送された被験者には、人権も何もない、惨い実験に晒されていたのです。私自身も、その実験に立ち会う立場でしたから、父を恨む立場ではないことは承知しています。」
ルイは、昔の記憶を辿りながら、自戒の念を強くしていた。
亜美は、先ほどのIFF研究所の写真と、ルイが取り出した写真を並べてみた。
確かに、二つはよく似ている。ほくろの位置、目鼻立ち、同一人物と考えても無理はなかった。
「でも、どうして、被験者だった伊尾木哲が、磯村勝になれたのでしょう?」
と、リサがルイに訊く。
「伊尾木には、私と同様に特別な能力が認められました。私の場合、他人の思念波を捉え、所在や状況を知る事ができるものでしたが、彼の能力は実験の中で飛躍的に高められ、相手の意思を変えさせるまでの能力になっていました。・・その能力を使ったと思うのですが・・・。」
それ以上のことはルイにも判らないようだった。
「あの・・飛躍的に高めるというのはどうやって?」
亜美がルイに訊いた。
「いろんな方法が取られました。食事を摂らせず身体的にギリギリの状態にする方法や、睡眠を取らせず精神的に追い込む方法、麻薬や覚せい剤といった薬物の使用、拷問に近いこともあったはずです。生命の危機に陥る時、能力が研ぎ澄まされていくという理論です。その中でも効果があったのが、ある薬品の注射効果でした。」
薬品の注射と聞き、亜美はあの忌まわしい事件を思い出していた。
同時に、亜美はルイと目を合わせた。
「そう・・私が父から受けた・・あの状態こそ、能力を飛躍的に高める一つの方法だったのです。」
ルイは敢えてそう言うことで、亜美や、リサに、余計な気遣いをさせまいとした。
「あの・・伊尾木哲にも、その方法が?」
と、リサが訊く。
「そこまでは判りません。・・ただ、彼は、ある日忽然と姿を消したのです。その日、研究所内でボヤ騒ぎが起き、研究者が屋外に避難した隙に居なくなってしまったのです。その後、研究所でも彼の行方を捜したと思います。だが、見つからず、彼の存在は闇に葬られてしまった。彼の記録の一切は廃棄されました。でも、私は、彼のことが気になって、こっそり記録の一部を隠し持っていました。それからすぐに、イプシロン研究所は閉鎖されてしまいました。」

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