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御挨拶 [苦楽賢人のつぶやき]

2022年も、つたない文章をお読みいただき、誠にありがとうございました。
「シンクロ~マニピュレーターと呼ばれる少女~」はまだ続いておりますが、年内は28日で一旦お休みとさせていただきます。2023年、新年は1月4日から再開いたします。
何だか、仕事納め・仕事始めみたいな感じになりますね。

実は、今回、ちょっと苦戦しております。こんなに複雑な話にするつもりはなかったのですが、剣崎アンナが余りに魅力的なので、もう一度登場していただこうと思ったら、何だか、厄介な輩を連れてきてしまったようで・・。
これで、新道ルイとレイの母子の秘密や、特別な能力が生まれた理由、そして、それが意味するものを少し掘り下げ、尾張にしようと思ったのがいけなかったようです。
もう少し、終結まで回数を必要としますが、ぜひとも、最後までお付き合いください。

年明け4日にまたお立ち寄りください。
コロナの終焉、ウクライナ戦争の一刻も早い終結、分断の世界が融合できる日を願いつつ、2023年兎年を迎えたいと思います。
皆さま、ご自愛ください。良いお年をお迎えください。
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6-6 二つの命 [マニピュレーター(シンクロ:同調)]

「磯村勝氏と伊尾木哲氏の繋がりは判ったけど・・本物の、磯村勝氏はどうしたのかしら。」
亜美は、寺を出て、車に向かう道でふと考えた。
「亡くなったと考えるのが妥当でしょうね。」
横を歩いているリサが、応えるように言った。
車に戻る途中、もう一度、廃墟となっている磯村家を訪ねてみた。
向かいの畑に老婆がいた。
亜美が声をかけ、磯村家の事を尋ねる。少し怪訝な表情を浮かべた老婆はこう答えた。
「勝は病気だった。もう長くないと言っていたんだ。だが、突然、居なくなった。どこかの病院へ入院したんだと思っていたんだが・・。」
死を目前にした磯村勝氏、逃亡していた伊尾木がどこかで接触したという可能性が浮かぶ。
「姿を消す前に変わったことはありませんでしたか?」
亜美が訊くと
「ここらじゃ、見た事ない男がうろついていたよ。」
その老婆はやけに鮮明に覚えていた。理由を聞くと、
「その少し前に、村の娘に街の男がちょっかいを出した事件があったばかりで、村の者は皆、苛ついていた。青年団の若い衆は、自警団を作って見回りをするほどじゃった。そんな時に、不審な男がうろついていたわけだから・・当然、騒ぎになるだろう。」
「それで?」と亜美が訊く。
「いや・・その男は、勝の知り合いだと言っていたんで、一件落着。もちろん、勝も皆に説明して納得させたようだった。その直後に、勝もその男も姿を見なくなったんだ。」
二人はここで出会った。いや、伊尾木はそこに双子の勝がいることを知りやって来たに違いない。
老婆はそう言うと、少し離れた自宅へ帰って行った。
二人は老婆を見送ったあと、廃墟となっている磯村家に入ることにした。「急に姿を見なくなった」という老婆の言葉が気になり、もしかしたらという気持ちを確かめるためだった。
玄関に鍵は掛かっていなかった。建付けの悪い引き戸を何とか開いて、中に入る。長く出入りがなかったため、埃やクモの巣はあったが、意外と整然としていた。靴のまま、二人は、玄関を上がる。入ってすぐ左手には、二間続きの和室とその奥に仏壇があった。廊下の雨戸は締まっていたが、隙間から外光が差し込んでいて、様子はよく見えた。玄関から奥まで中廊下があり、右手に階段とその奥にはもう一部屋ある。ありきたりの住宅の間取りである。一番奥が台所と食堂。家具は少ない。床に血が飛び散ったような跡もなく、争ったような形跡もなかった。
亜美は、不意に、磯村、いや、伊尾木が特別な能力を持っていた事を思い出す。もし彼が能力を使って、磯村氏を死に追いやったとしたら、と思う。争うことなく、ナイフで刺し殺さずとも、磯村自身を自死に追いやることは容易にできたかもしれない。そして、それは、殺人という形では立証できないだろう。だが、もし、磯村氏が死んだとして、遺体はどうしたのだろうかと考えた。
リサは、2階の部屋を見て回った。特に異常は感じない。学習机とベッド、本棚には古い本や雑誌が入ったまま、埃だけが積もっている。ここはおそらく、磯村勝氏が子ども時代を過ごした部屋だろうと推測できた。
そんなに簡単に磯村氏の遺体を発見する事ができるはずはない。ここではなく、別の場所に運ばれて、埋められているかもしれない。
奥の台所に入った時、亜美は、そんなことを考えていた。
2階から、リサが降りて来る。
「特に変わったところはありませんね。」
リサが亜美に言った。
「ええ・・そうね。ここに二人がいたのは間違いないけれど、ここから二人で違う場所に行った可能性もあるし・・。」
亜美はそこまで言って、ふと、台所の窓から外を見た。裏庭は意外と広い。そこに、小さな物置小屋が立っている。そこに何か違和感を感じた。
「ねえ、あれ・・。」
と亜美が、リサに言う。
「物置小屋でしょうか?」
リサもそう言ってじっと見つめた。そして、ふと口にした。
「何か変ですね・・なんでしょう?」
二人は勝手口から裏庭に出た。ゆっくりと近づいていく。
「あっ!」と亜美が小さく言葉を発する。それに呼応するように、リサは口を開く。
「これ、変ですよね。」
そう言って、指さしたのは、物置小屋の取っ手に取り付けられた南京錠だった。裏庭に置かれた物置小屋には、不似合いなほど大きな南京錠が取り付けられていた。通りから全く目に付く場所ではなく、裏庭に入るには、家の脇の狭い場所を通るくらいしかなく、泥棒が狙うような場所ではない。明らかに、開けられたくないという気持ちから、必要以上に大きな南京錠をつけたということがはっきりわかるものだった。
「もしかしたら、この中に?」
と、リサが亜美に訊く。言いたいことは判っている。
「おそらく・・でも、これ以上は、ちゃんと手続きを取った方が良いわ。仮に、遺体を見つけても、恐らくミイラ化しているでしょうし、鑑定も必要になるわ。県警に連絡しましょう。」
亜美は冷静だった。
直ぐに、県警に事情を説明するために電話を掛けた。
だが、突然、他県から来た刑事が「死体があるかもしれないから調べてほしい」と言っても、そう簡単に動くものではなかった。
「仕方ないわ・・署長から連絡をしてもらうわ。」
亜美はそう言って、橋川にいる父、紀藤署長に連絡を取った。
暫く、返答はなく、半日ほど、二人は磯村家の前で待つことになった。
夕暮れが近づいたころ、ようやく、数台のパトカーとトラックがやって来た。
直ぐに、小屋の南京錠が切られ、扉が開く。
「なんだ、これは?!」
南京錠を切断する為に、扉の前にいた厳つい男の警官が叫ぶ。
そこには、座った状態で白骨化している遺体があった。すぐに規制線が張られ、鑑識班も加わって、夜を徹して現場検証が始まった。
県警の年配の刑事が、亜美のところへやって来た。
「まあ、磯村氏で間違いないでしょう。ただ、外傷はなく、出血した様子もない。あそこに閉じ込められたまま、餓死したんじゃないでしょうか?・・あの鍵がなければ自殺ということもあるでしょうが・・やはり、これは他殺でしょう。ただ、もう何十年も経っているようですから・・」
「あの、昼間に話した女性から、昔、磯村氏の・・いや、伊尾木という男がここに居たという情報がありました。その男が関わっているんじゃないでしょうか?」
亜美が昼間の話を伝えた。
「そうですか・・だが、今更、目撃証言や物証を探してもねえ・・。」
その刑事は、真剣に捜査するつもりはないようだった。その刑事はそう言うと、再び、遺体発見現場に行き、鑑識と何か会話をして、戻って来た。
「どうやら、亡くなったのはあそこではなさそうですね。誰かがあそこに遺体を運んだようです。遺体の手足の骨が折れているようなんです。死後、あのような格好にして、あそこへ置いたらしんです。・・どうして、そんなことをしたんだか・・・」
刑事は、厄介な事件が起きた者だと、うんざりした表情を浮かべている。
そう言えば、扉を開けた時、遺体は、不自然なほどに綺麗な座位を取っていた。
それを聞いて、リサが亜美の耳元で小さく話した。
「磯村氏は病気だとも言ってましたよね。もしかしたら、家の中で亡くなり、それを伊尾木氏が看取ったんじゃないでしょうか?ただ、そのままにしておけば、いずれ、磯村氏が亡くなったことが明らかになる。伊尾木氏は、磯村氏になる為、遺体が発見されにくいように、ここへ移した・・。」
亜美はリサの話を聞いて、ゆっくりと頷いた。
通報までの経緯を県警に報告した後、亜美とリサは、一旦、橋川へ戻ることにした。
伊尾木氏と磯村氏の入れ替わりの事実が明らかになった。ただ、その事実が明らかになっても、あまりに複雑すぎて、F&F財団と神林教授のつながりはぼんやりしたままだった。

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