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AC30第2部カルディアストーン ブログトップ
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31.復活の予感 [AC30第2部カルディアストーン]

「キラ様、カルディアストーンは正常でした。これをエナジーシステムにセットすれば、ジオフロントは復活するはずです。すぐにセットしましょう。」
エリックは、まるで人間のように、いやそれ以上に、喜んでいる様に大きな声を出した。
そして、マルチハンドにカルディアストーンを持ち、まっすぐに、エナジーシステムへ向かう。キラとPCXはエリックの後ろをついて行く。
キラの後ろを歩きながら、PCXは、「しかし・・」と言ったキラの思いを察していた。
「キラ様、私はラボに戻って、エナジーシステムのモニタリングをしています。」
PCXはそう言うと、ラボに引き返して行った。

「さあ、セットしますよ。」
エリックはそう言うと、エナジーシステムの中央にある大きな球形の前に立つと、頑丈な扉を開き、マルチハンドをゆっくりと伸ばした。それはまるで宇宙ステーションの船外操作のハンドの様に、じれったくなるほどゆっくりゆっくりと伸びていく。
10分ほどかけて、ようやく、システム中央にあるシリンダー部分を掴むと、上部の蓋を再びゆっくりと開いていく。その後、ようやく、カルディアストーンを少しずつ差し込んでいく。そして、カルディアストーンを格納すると、厚い扉をゆっくりと閉めた。
頑丈なドアを開いて格納するまで、1時間近くを掛けて慎重に進めたのだった。
「さあ、スイッチを入れます。PCX、モニターのチェックをしてください。」
球形の核の操作パネルをエリックが触れた。
「ブーン」という低周波の様な鈍い音がし始める。
徐々に音は高くなり、小さな振動を感じた。球形の核に設けられた覗窓のような部分から強い光が発している。確実にエナジーシステムが稼働を始めたようだった。
ラボにいるPCXの声が、エナジーシステムのどこかに設置されているスピーカーから聞こえた。
「エナジーボリューム5%・・・6%・・・7%・・」
徐々にPCXの言葉はカウントアップしていく。
「大丈夫・・どんどん上がっています。」とエリックも言う。
PCXが「10%」とカウントした時だった。突然、エナジーブロック内にけたたましい警報が響いた。
「どうしたんだ!?」
キラが言うと同時に、「グーン」という鈍い音とともに、光が消え、静寂となった。
「エナジー変換システムのどこかに異常があるようです。」
PCXの声がスピーカーから流れる。
「何てことだ!」
キラが球形の隔壁を殴りつけて、落胆を露わにした。
「ラボに戻りましょう。」
エリックは機械的にそう言うと戻って行く。キラも後ろをついて行く。
ラボに戻ると、PCXがモニターシステムと自分のシステムを接続して、データ解析をしていた。そして、同じデータをエリックに送信した。
「ストーンは正常でした。今も異常は出ていません。それ以外のシステムの故障です。」
PCXが言うと、エリックが答えるように言った。
「ジオフロントのエナジーシステムは、ここから、各エリアにエナジーを伝送したあと、再び、エナジーの核へ戻ってくる設計で、このジオフロント全体が大きなエナジーシステムを支える構造なのです。どこかに故障原因があるはずです。一つずつ確認しなければなりません。」
「エリア全てを調べるのか?」
「早い段階でシステムが停止しましたから、それほど広域ではありません。ひと月程度で特定できるはずです。」
「ひと月もかかるのか・・。」
キラは落胆したまま呟いた。
「復活するなど考えられない状態だったのです。正常なカルディアストーンが手に入ったのですから、もう復活したと同じことです。私に任せてください。」
エリックは、そう言うと、PCXとともに、すぐにコアブロックの中を調べ始めた。

32.決意 [AC30第2部カルディアストーン]

キラは、一旦、ガウラの許へ戻った。
ガウラはまだ眠っていたが、随分と穏やかな寝顔を見せている。キラはまだ答えを出せずにいた。
ガウラのベッドの脇に座り、目を閉じ、出るはずのない答えを探している。

「キラ・・」
しばらくして、ガウラが目を覚ましたようだった。
「ああ・・ここに居るよ。」
ぼんやりとしているガウラに、顔を近づけて答えた。
「システムは回復したの?」
キラは首を横に振りながら、「エリックがシステムを調べているんだ。時間が掛かるようだ。」と答える。
ガウラは、小さく「そう・・」と答え、天井に視線を向けた。
ガウラも、ここからの未来を思い浮かべ、やはり、答えのない問いを繰り返しているようだった。静かだった。時間が停まっている。いや、もともと、コアブロックは遥か昔に時間を止めているのだが、それがまさしく現実のものの様に感じられた。
突然、グーンという低い唸りにも似た音が響き始めた。徐々にその音は高くなっていく。何かが高回転しているような音だった。
「キラ様!」
エリックの声が響く。キラが驚いて飛び上がった。
「どこだ?」
どうやら、声は、室内のどこかにあるスピーカーから聞こえているようだった。
「キラ様、エナジーシステムは起動しました。・・ストーンの取り付け方が違っていたようです。安定して徐々に出力を上げています。完全に復活するまでもうすぐです。」
その声とともに、コアブロック全体の照明が輝き始めた。
「徐々に、エナジーがジオフロント全体に行き渡るでしょう。もう大丈夫です。」
再び、エリックの声が響いた。
「やったぞ!ガウラ!」
キラはガウラの手を取った。ガウラも力強く握り返す。そして、ガウラの目には大粒の涙が溢れていた。
「よし!オーシャンフロントに行く!何としても、ハンクたちを連れ戻すんだ!」
キラは答えを出した。
「でも・・無事に戻れるかどうか・・・。」
ガウラが心配する。
「いや、必ず戻る。カルディアストーンだって、持ち帰ることができるかどうかわからなかったんだ。それでも、持ち帰ることができた。」
「それは・・PCXの力を借りたからでしょう?今度は、そんなふうにPCXが協力してくれるかどうか・・」
「ああ、判らない。でも、ジオフロントは復活したんだ。これで、僕たちの未来は変わる。そのためには、ハンクたちは居なくちゃ。・・・みんなが戻って来なければ、ジオフロントが復活したとしても、意味がない。このまま、ここに留まることこそ無意味だ。」
「行けば・・命を・・命を落としてしまうかもしれないのよ・・」
ガウラは不安げであった。
「ああ・・そうかもしれない。それでも、行かなくちゃならない。」
「あなたは、カルディアストーンを持ち帰った・・すでに、充分に、勇者の役割を果たしてるわ。」
「いや・・僕は、禁断のエリアの扉を開けた。・・勇者として、ジオフロントを復活させる使命があるんだ。・・命と引き換えにしても、皆を連れ戻さなければならない。」
「もし・・戻らなければ?・・誰も戻って来なければ・・私は・・私は・・どうすればいいの?」
ガウラの言葉は行き場を失い、泣き崩れた。
キラは覚悟を決めていた。
「ガウラ、判ってほしい。・・僕は、必ず戻ってくる。例え、PCXが裏切ることがあっても、僕一人でもやり遂げてみせる。そうしなくちゃ、アランにも顔向けできない。」

33.準備 [AC30第2部カルディアストーン]

決意を固めたキラは、泣き崩れるガウラの背を優しく撫でながら、「わかってほしい。」と繰り返した。
ガウラはしばらく泣いていたが、「わかったわ・・私も何かできることを探すわ」と応え、キラの覚悟を受け入れたようだった。
キラは、すぐに、出発の準備を始めることにして、エナジーシステムの調整を続けているエリックに告げた。
「オーシャンフロントへ行く。皆を連れ戻す。それまで、ガウラや皆を支えてほしい。」
「お任せください。エナジーシステムさえ回復すれば、ここは大丈夫です。快適に生きていけるよう、お戻りのころには、見違えるようなジオフロントにしておきましょう。」
エリックは作業を続けながら答えた。

キラは、エリックを手伝っているPCXに言った。
「PCX!オーシャンフロントへ案内してくれ。皆を連れ戻すんだ。」
「よろしいのですか?」
「君が、オーシャンフロントの何者かに支配される可能性が高いことは承知している。だが、君の助けなしには、たどり着けないだろう。それに、ここに残したところで、オーシャンフロントに支配されるのは一緒だろう。それなら、道は一つだ。」
迷いを吹っ切ったキラの意思は固かった。
そして、これから起こる想定を超える出来事をも必ず乗り越えてみせるという気持ちは、PCXにも伝わった。

「わかりました。おそらく、オーシャンフロントに近づけば、影響を受けるでしょう。出発までに何か策はないか探ってみます。」
「そうしてくれ。」
「キラ様は、フードブロックから1週間分の食糧を調達してください。オーシャンフロントはおそらくかなり遠ざかっていると思います。海上を行きますから、途中で、食料や水は調達できないかもしれませんから。」
「判った。すぐに取り掛かる。」
「それから、小さな武器が必要です。アラミーラも、もっと良い性能のものを選びましょう。そちらは私が準備します。出発は、明日にしましょう。もう、地表は熱波に覆われ始めています。急がなければいけません。」
「そうしよう。」

キラはフードブロックで食料の調達を始めた。
皆が囚われてから、満足な狩猟もできず、わずかな食糧が残っている程度だった。自分が戻るまでの間、ガウラや母たちの必要なものを残さなければいけない。キラは、ドラコの干し肉を一握りと、フィリクスの実のフレークをわずか程、袋に入れた。

キラのところへ、キラの母たちがやってきた。
ガウラから、話を聞いた様子だった。
「どうしても行くのかい?」
キラの母ネキは、心配げな表情で遠慮がちに聞いた。息子の決意は理解している。今さら引き止めることなどできないことも承知している。それに、皆を連れ戻さなければ、ジオフロントは自分たちだけになり、いずれ滅びてしまうことも分かっていた。だが、息子が再び危険な旅に出ることを喜ぶことなどできなかった。
「母様、すみません。決めたことです。こうなってしまったのは、僕があの扉を開いたことが原因です。必ず、皆を連れ戻してきます。信じてください。」
キラは、涙を見せぬよう必死の形相で母に告げる。
「そうかい・・そうだね・・・信じているから。」
ネキはそう言うと、キラの手を強く握った。
すると、一緒にいた女性たちが、キラを取り囲むように身を寄せた。皆の思いは一緒だった。温かい思いがキラの身を包みこんでいた。

翌朝、日が昇り切らないうちに、キラとPCXは地表に向かった。

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