SSブログ

エピローグ [マニピュレーター(シンクロ:同調)]

マリアは、亜美やリサと繋いでいた手を離すと、一歩二歩、前に出た。
「マリアちゃん?」
亜美が心配そうに訊く。
マリアは亜美の声には反応せず、目の前に立つ総帥を睨みつけていた。
マリアの髪の毛が少し逆立ったように見えた。
すると、周囲に転がっている机や椅子などが徐々に浮き上がった。そしてそれらは、マリアを取り囲むように回転を始めた。
「赦せない!」
マリアはそう叫ぶと、目の前に立つ総帥に向けて、机や椅子を飛ばしていく。
「私と戦おうというのか?」
総帥は少し戸惑い、薄ら笑いを浮かべて訊いた。
飛んでくる机や椅子は、総帥の体には触れる事もなく、弾き飛ばされていく。
「赦さない!」
マリアは再び叫ぶ。
すると今度は、マリアの体から光の束が伸びていく。そして、総帥の体を包み込もうとする。勿論、亜美やリサには、その光自体ぼんやりとしか見えていない。
総帥は、その光の束をことごとく切り刻み、逆に、徐々にマリアの体をより大きな光の束で包み込もうとしている。
そして、ついに、総帥の放つ光の束が、マリアの体を包み込み、自由を奪った。
「私に逆らうなどあり得ないことだ。観念するがいい。お前は私の僕なのだ。」
総帥は勝ち誇ったような言葉を発した。だが、同時に、中心からさらに強い光が発せられ、総帥の光の束はパッと消えた。
「何と・・それほどの力を・・・。」
総帥は、マリアが得た強大な能力に驚くとともに喜んでいるように見えた。
「我が意思を継ぐのは、マリア、お前に違いない。お前こそ、待ちわびた、エヴァなのだ。さあ、私とともに行こう。世界を支配するのだ。」
総帥は、攻撃の手を止めて、マリアに近付く。
「嫌!来ないで!」
マリアが叫ぶ。同時に、強い思念波の矢が総帥の足を貫いた。
総帥が初めて狼狽えた姿を見せた。
「お前を傷つけたくはないが、止むをえない。これでどうだ!」
総帥の手から、思念波の矢がマリアを目掛けて飛んでくる。
だが、全て、マリアに吸収されていく。
「なんと、私の思念波の矢を吸収するとは・・・。」
総帥は、予想外のマリアの力に驚きを隠せない。
マリアは、両腕を大きく広げる。手指の先から無数の光の糸が伸びていく。
「そんなもの、私には効かぬぞ。」
総帥は、その思念波の糸を簡単に払いのける。だが、それは、払いのけられたのではなく、同時に、総帥の思念波に絡みついていく。抵抗すればするほど、絡みつき、どうにも動けなくなっていく。そして、圧倒的な数に抗いきれなくなり、少しずつ、総帥の体を包み込んでいく。
総帥の体を完全に包み込むと、マリアは、広げた両手を徐々に小さく閉じていく。
同時に、総帥の体を包み込んでいる光の糸が徐々に小さくなっていく。
無数の糸は、総帥の体を繭のごとく包み込み、徐々に徐々に、縮んでいく。
「止めろ!止めろ!止めてくれ!」
総帥の悲鳴が響く。
全身が押しつぶされ、光の繭のあちこちから血飛沫が上がる。
そして、最後にマリアは両手を目の前でぱちんと合わせた。
光の繭は一気に小さくなり、ついに、真っ黒な小さな塊となってぱちんと弾けて消えた。
同時に、マリアがその場に倒れ込んだ。
「マリアちゃん、しっかりして!」
亜美とリサが駆け寄る。
総帥の姿が消えると、医師や看護師、患者の姿が戻って来た。総帥の思念波で、全てが消されていたのだった。
皆、院内の荒れ果てた状態に驚き、なにが起きたのか判らない様子だった。
紀藤署長や一樹が目を覚まし、すぐに、紀藤署長は、警察と消防に応援要請の連絡を入れた。
ほんの数分で、警官や救急隊が駆けつけ、皆を誘導して安全を確保した。
レイやルイ、剣崎は、なかなか意識が戻らず、けがの程度も酷かったため、病院内で治療を受け、最上階の病室へ運ばれた。
一樹と紀藤署長、亜美とリサは一旦、新道邸へ戻り、休むことにした。
翌日になり、みな、意識が戻り、動けるようになったため、一旦、新道邸に戻って来た。
リビングルームには、皆が顔を揃えた。
マリアが皆の真ん中に座っていて、あれほどの惨事に居合わせた事すら感じさせないあどけない表情を浮かべていた。
「これで全て終わったのだろうか?」
一樹が、まず口を開いた。
「さっき、アメリカから連絡があり、F&F財団が当局の捜査を受けることになったらしいわ。おそらく、総帥が消え、思念波が無くなり、政府高官も呪縛から解放されたんでしょう。秘密裏にしてきた事が全て暴露され、解体されるのは時間の問題でしょう。各国にあるF&F財団も次々に摘発されているみたいだから。」
剣崎が言った。
「日本はそんな簡単にはいかないようだな。富士山中の大量の遺体、新道病院の事故、かつてない事件だから、暫くは大変だな。」
一樹はそう言うと、紀藤署長が口を開いた。
「富士の大量の遺体は、有毒ガスの発生による事故。新道病院の一件は、院内のガス管の腐食による爆発事故で処理されることになった。そういうことだから大丈夫だ。警察組織は臭い物に蓋をするのは、昔から得意なんだよ。」
紀藤署長の話を聞いて、一樹は呆れた顔を見せる。
「じゃあ、マリアちゃんはこれから自由に生きていけるのね。」
亜美が嬉しそうに言う。
「でも、どこで?」と、リサが訊く。
「しばらくは、ここに居ると良いわ。ね、マリアちゃん。」
レイがマリアに訊く。
「うん、そうする。」
マリアが笑顔で答えた。
「それより、伊尾木さんはやっぱりもう居なくなったんでしょうか?」
リサが訊いた。
「総帥との闘いで消滅したってことなんじゃないか?」
と一樹が言うと、マリアがすっと立ち上がった。
「おじさんは、私の中に居るわ。」
そう言って、マリアは自分の体を指さして見せた。
「マリアちゃんの心の中で生きてるってことね。」
亜美が言うと、マリアの体の中から、小さな光の粒が浮かび上がった。
「ほら、ここ。」
マリアは、小さな光の粒を両手でそっと包み込んだ。そして、みんなの前で開いて見せる。
『私は常にマリアと共に居る。』


ーEND-

nice!(8)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー