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7日目③空腹のピンチ [琵琶湖てくてく物語]

・・だが、もう時間は正午を迎えていた。
朝、ピエリ森山に車を停め、バスとJRで近江八幡駅に着き、ここまで歩いて、3時間ほど経過したことになる。
昼となれば、腹が減る。
実は、この長命寺橋のたもとに、たこ焼き屋の屋台がいつもは開いているのだが・・何と、今日はいないではないか。先月来た時には確かあったような記憶があるのだが・・寒くなって商売にならないのか・・。
困った。今回、昼食を途中で買ってくるはずだったのに、結局、コンビニらしきものがなくて、最後の砦と、ここのたこ焼き屋を当てにしていたのに・・。どっと疲れた。
「チョコレートとバナナがあるけど食べる?」
疲れと脱力感で座り込んでいる私を見て、妻が言う。
「バナナ?」
「ええ、先回、甘いものが食べたいと思ってたから持ってきたの。」
なんと、素晴らしい。
疲れた体に「チョコレートとバナナ」とは、栄養満点、やる気満々のご馳走ではないか。
実のところ、どこかに出かける時、妻は支度に時間が掛かる。化粧に時間が掛かるのではなく、心配症で何かといろいろと持っていこうとして手間取るのだ。一泊程度の旅行でも、大きなカバン満杯の荷物になる。そんなに必要なの?と心の中で思いながら、ぐっとこらえているのが常だ。そんなことを言おうものなら機嫌を損ねてさらに時間が掛かるからだ。
だが、今回は見直した。「チョコレート」だけなら、まあ普通にそうかというくらいだが、「バナナ」とは見上げたものだ。そういう発想にこれまでも助けられたことがしばしばあったような気がする。一つ一つは思い出せないが・・。
「バナナ」について・・・今では、多様なバナナが流通し、店頭でも、年間安定して販売されている。バナナは、低カロリーながらカリウムやビタミン等を多く含み、栄養面では極めて素晴らしい食品である。
私が子どもの頃、病気になると「滋養があるから食べなさい」と祖母が買ってきてくれたことを思い出す。その頃は、1ドル360円の固定相場制だったため、輸入品はおしなべて今の3倍近くになる。100%輸入に頼っている「バナナ」も、今は1房100円くらいから売っているけど、当時は、恐らく3倍以上だったはずで、一方の収入は、今の5分の1程度なので、15倍という事になる。単純に言うと、1房1500円くらいという高価だったはず。それでも、「滋養があるから」と言って買ってきてくれた。祖母の優しさに感謝すべきなのだろう。
ただ、当時のバナナは今と違ってさほどおいしくなかった。
社会科見学で下関のバナナ工場へ行った時、真っ青なバナナが大きなコンテナに入っていて、それを地下にある「室」に入れ蒸気をあてると黄色くなって出てきたのを覚えている。当時はまだ、病害虫の検疫のため、どこか薬品臭かった。皮からちょっと変な匂いがしていたのを思い出した。今は、何れも味と栄養価と熟度を競い合うようになっていて、とっても美味しい。当時は、「遠足のおやつは300円まで」などというルールもあって、「バナナはおやつですか?」という質問をするのが笑い話のようになっていたのだが、おそらく、当時、バナナ1本で300円くらいの価値があったのではないかと思う。
そう言えば、当時は、チョコレートも普通のお菓子とは別にガラスのケースに入って売っていた。今では安売りのコーナー商品になっている「ガーナミルクチョコ」の赤いパッケージがガラスケースの中にそっと置かれていて、子どもは触ってはいけないもののように見えたものだ。原料のカカオも輸入品なので、こちらも相当高価だったということだろう。
土手に座って、バナナとチョコを食べながら、そんな話をした。
空腹が満たされたわけではないが、何とか、午後の道のりを歩くエネルギー補充は出来たような気がした。

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