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6-8 犠牲者 [マニピュレーター(シンクロ:同調)]

4人が磯村家の近くまで来ると、国道や住宅地のあちこちに、警察車両が多数止まっているのが目に入った。車を停め、すぐに紀藤署長が、地元の警察に連絡して、事態を確認する。
「火災のようだな・・。」
磯村家に向かう住宅地内の道路は完全に封鎖され、消防車両が多数集まって消火活動をしていた。
「まさか・・。」と亜美。
「どうやら、そのようです。」
と、リサがスマホを開いて、火災のニュース画面を見せた。
磯村家やその周辺の住宅が火災を起こしていた。
『火元は、この住宅地の磯村勝さんの住宅とのことで、木造家屋が全焼、周辺の住宅3棟も類焼しました。焼け跡から、一人の遺体が発見され、現在、身元を確認しています。磯村勝さんの住宅には、勝さんと息子の健一さんの二人が暮らしており、現在、二人とも連絡が取れないということです。なお、火事の原因は現在消防で調査をしていますが、近所の方の話では、爆発音の様なものが聞こえたとの証言もあり、失火と爆発の両面で詳細に調査がされるものと思われます。』
ネットのニュースアナウンサーが解説する。
「自分で?」
と、亜美が言う。
「その可能性はあるが・・だが、遺体が一人しかないのが不可解だな。」と紀藤署長。
「ひとりは拉致されたということでしょうか?」とリサ。
「おそらく、磯村・・いや・・伊尾木氏は拉致された。そして、それを目撃した磯村健一氏が殺害されたということじゃないか?」
と、紀藤署長が答えた。
「でも、マニピュレート能力を持つ伊尾木氏が、そう簡単に拉致されるでしょうか?拉致しようとする相手を思うように操れるはずです。」
リサが、紀藤署長に訊く。
「レイさんも、拉致されたんだろう?おそらく、伊尾木氏が能力を使う前に、突然襲ったということかも知れない。レヴェナントかもしれないが・・それなら、健一氏を殺害する必要はなかったはずだしな・・。」
紀藤署長は自問自答するように答えた。
「あっ!」と、亜美が叫ぶ。
「どうした?」と紀藤署長。
「磯村氏が、サイキックの伊尾木氏だということは、F&F財団も、レヴェナントも知らなかったことですよね。それを知った人物が関与したことだと言えませんか?」
亜美が言うと、リサもその意味を理解した。
「剣崎さん・・剣崎さんがこの件に関与しているということ?」
リサが、敢えて言葉にする。
「彼女が知ったのは昨夜。それに、彼女はマリア監視のため、十里木高原に釘付けになっている。実際に手を下したのは、別の人物ということになるが・・。」
紀藤署長が整理して訊いた。
「以前、彼女は監視されていると話していました。そもそも彼女は、FBIから、マリアさんの捜索と保護を依頼された。その動きは監視されているはずです。もしかしたら、F&F財団に情報が伝わっているということではないでしょうか?」
リサが答える。
「剣崎さんの背後にいる、F&F財団に繋がる組織か・・・、あるいは、その動きを察知したレヴェナントが匿ったか・・・いずれにしても、伊尾木氏はどこへ連れ去られたか・・だな。」
紀藤署長は、まだ煙が立ちのぼっている火事現場の方角を見ながら言った。
後部座席に座っていたルイは、じっと目を閉じたままだった。
ルイは周囲に、伊尾木氏や拉致に関与した怪しい人物がまだいるのではないかと考え、思念波をキャッチしようとしていた。
「近くに・・何か・・。」
ルイが呟く。それを聞いて、亜美やリサは、火事を見ようと集まった群衆に視線を送る。
「離れていく・・。」
その言葉を聞いて、リサが車から飛び出した。
そして、遠巻きに見ていた人の群れから、遠ざかろうとする男を見つけ、すぐに後を追いかけた。こちらの動きを察知したのか、男は小走りになる。
「待って!」
リサは何とか追いつこうと必死で走った。前を行く男は少し足が悪いようで、もう手が届くくらいまで接近した。
不意に男が振り向くと、突然、リサは動けなくなり、転倒した。まるで、両足をロープで縛られたようになった。
その様子を確認すると、男は近くに止めてあった車に乗り込んで走り去った。
リサのあとを追いかけてきた亜美が、リサを助け起こす。
亜美はリサに肩を貸し、ゆっくりと立ち上がる。
「あれは、伊尾木ね。」
「ええ・・きっとそうです。一瞬、意識の中に、彼が入り込んで、自由が利かなくなりました。」
リサは転倒した時、腕や肩、膝を打撲していた。その時、不思議なことに全く痛みを感じることがなかった。自分の体でありながら、別の人の体のように感じていた。そして、意識が解放されると一気に痛みが襲ってきた。
車に戻ると、亜美が言った。
「伊尾木は生きている。火事の様子を見て驚いていた。火事を起こしたのは彼ではなさそうね。」
「レヴェナントなら、彼を殺害することはないはずだから、彼の命を奪いたい組織、たぶん、F&F財団から送られた者だろう。」
紀藤署長が言った。
『火災現場から見つかった遺体は、磯村健一氏のものと特定されました。』
カーオーディオで、ローカルFMにチューニングしていたのか、急に、ニュースで速報が流れた。
「F&F財団が彼を狙ったのは何故かしら?」
亜美が呟く。
「これまで、IFF研究所は、マーキュリー研究所や学園に子どもたちを送る役割だった。マリアもその一人だった。マリアが施設から逃げ出したことと、今回のことがどこかで繋がっていると考えらえるんだが・・・。」
紀藤署長も呟くように言った。
「富士FF学園にいたマリアをマーキュリー学園に送り出した直後に、富士FF学園は閉鎖され、さらに、IFFでも研究員の自殺と火事、役員の事故や自殺・・。役割を終えたということになったんじゃないでしょうか?」
リサが言う。
「役割を終えた組織を消し去る必要があったということか。」と、紀藤署長。
「彼の思念波には、怯えはなかったわ。」とルイが呟くように言った。
「怯えはなかった?」と紀藤署長が繰り返すように訊く。
「ええ、彼からは強い意志を感じたわ。・・おそらく、後悔から決意した感じ。そして、怒りと戦う意思。きっと、彼は、F&F財団に戦いを挑むつもりじゃないかしら?」
「じゃあ、レヴェナント側の人間ってこと?」と亜美。
「そのつながりまでは判らないわ・・。」
ルイが答えると、リサが口を開いた。
「私もそうでした。MMから逃れることばかりを考えていたけど、彼の存在を知り、彼と再会した時、戦うことを決意しました。・・伊尾木氏もそういう思いなのかもしれません。・・レヴェナントという組織がコンタクトを取ったとしても、彼は、自分の力だけで戦おうとしているのかも・・。まだ、私たちが気付いていない、F&F財団とつながりのある組織が、日本にあるのかもしれません。」
「まだ、ある?」と亜美。
「確かに、伊尾木氏の存在を知った、F&F財団の別の日本の組織がすぐに動き、伊尾木氏の家に放火したということも充分に考えられるな。そして、その組織が、剣崎さんも監視していて、こちらの情報が筒抜けになっているということになる。だが、一つ疑問がある。もし、その組織があるなら、剣崎さんがマリアを発見したのに、なぜ、マリアをすぐに拉致しないのだろう?」
紀藤署長は、首を傾げた。

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