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7-5 支配 [マニピュレーター(シンクロ:同調)]

「世界を支配?・・頭がおかしいんじゃないか?・・・まさか・・それこそが、F&F財団の目的だっていうんじゃないだろうな?」
一樹は、もはやついていけないという顔で言った。
「そう。その通り。F&Fは、国という概念は持たない。優れた者こそが世界を支配すべきだという信念をもっているのよ。」
剣崎は真面目な顔で答える。一樹は、呆れた顔で聞いている。
「財団は、資産を投じて、私やルイさんのように、実際に、特殊な能力を持っている者が存在していることが判ると、世界中から、研究者や被験者を集め、研究を始めた。初めは、小さな、イプシロン研究所だった。その頃はまだ、財団も少数の小さな組織だった。でも、ルイさんが研究所に入った事で大きく変わったのよ。」
剣崎は、言葉を選ぶ様に話を続ける。
「ルイさんは、研究所の中でも特異な存在だった。研究者であり、被験者でもあった。奇妙と思われた研究が、革新的な研究へと変わり、様々な団体や政府組織が支援を始めた。一気に、財団は大きくなったの。でも、大きな事故で研究所は閉鎖され、F&F財団も一時活動を休止した。」
「それは・・伊尾木が姿を消したことと関係があった・・。」
リサがルイから聞いていた話を付け加える。
「ええ、そうね。研究所で火事が起き、伊尾木が行方不明になり、研究資料が無くなった。その時、財団が一番恐れていたのは、伊尾木の能力を飛躍的に高めた薬品のことだった。おそらく、伊尾木が自らのために盗み出したと思われ、財団も彼の行方を追った。でも、結局、見つからなかった。」
伊尾木は研究所から姿を消したあと、生まれ故郷に戻り、磯村氏を殺害したうえで、なりすます事に成功し、結果的にF&F財団の下部組織に身を隠したということは、すでに、亜美たちの捜査で明らかになっていた。
「一度は休止に追い込まれた財団が復活したのはどうしてですか?」
亜美が訊ねる。
「そのきっかけになったのは、ケヴィン。彼は、陸軍の軍人だった。軍は、イプシロン研究所の研究を引き継ぎ、密かに人体実験を行っていたのよ。そこで、ケヴィンが見つかった。本格的に研究を行うため、F&F財団が引き受け、マーキュリー研究所ができたのよ。」
剣崎が答えた。
「そこには・・剣崎さんも?」と亜美。
「ええ、そうよ。財団は以前と同様に、可能性のある被験者を集め始めた。私もその一人だった。」
剣崎の言葉には、少し恨めしさがこもっていた。
「そして、それは、マリアが収容されていたマーキュリー学園へ姿を変えた。でもね、それはあくまで、研究の一部に過ぎなかったの。」
剣崎は、知っていることを洗いざらい話そうとしていた。
「今、私たちの周りで起きている事こそ、エヴァ・プロジェクト・・・そのものなのよ。」
剣崎の声が少し震えている。
「初めから、知っていたわけじゃないわ。ルイさんから聞いた話しと私の知っていることを繋いだ時、判ったの。」
剣崎の話を聞きながらも、何が言いたいのか釈然としない。
「もっと、判りやすく言ってくれないか!」
一樹が剣崎に言う。
「世界を支配するための最強のサイキックを作るには、サイキック同士が戦う必要がある。互いの能力をぶつけることで、新たな能力を生み出し高めることができる。でも、それは容易なことじゃない。ルイさんや私、レイさんも思念波で意思を通じ合う事ができる。思念波の融合は出来ても、戦うという概念はない。だから、無理やりにでもそういう状況を作り出そうというわけ。」
「レヴェナントとチェイサーか・・命を賭けて戦う構図を作り上げたということなんだな。」
一樹が、整理するように言った。
「ええ、そうよ。私は、その餌のようなもの。」
「しかし、マリアは全く無縁じゃないのか?」
「そうじゃない!そうじゃないのよ。・・・マリアはすでに最強のサイキックなのよ。」
そこまで聞いて、リサが口を挟んだ。
「じゃあ、マリアちゃんが収容所から抜け出したのは・・彼女の意思ではなく、仕込まれたことだったということですか?」
それを聞いて、剣崎が悲しげな顔を見せて答える。
「ええ・・おそらく、マリアを解放すれば、当然、レヴェナントが触手を伸ばして動き始める。そうなれば、当然、チェイサーも動く。そして、ルイさんやレイさんのように、F&Fが把握していない者達も集めようと考えた。そうすれば、彼らが目指す最強のサイキックが生まれるに違いないと・・。私は、そんなことも判らず、F&F財団の計画に乗ってしまった・・。本当にごめんなさい。」
暫く、みな沈黙した。
誰もが、マリアの保護とは、もはや次元の違う事態に向かっているという状況を、漠然と理解したものの、自分はこれからどうすれば良いのか、何ができるのか、自問自答していた。
このまま、マリアの居場所を見つけることができたとしても、チェイサーが迫ってくる。そして、レヴェナントとチェイサー、そしてマリア、レイの力がぶつかった時、何が起こるのか想像さえできない。何かしなければならないのは判っている。
「レイさんはどうしているのかしら?」
沈黙を破るように、リサが言った。
ルイは、それを聞いて、シンクロを始める。
目を閉じて意識を集中させる。先ほどの映像からキャッチしたレイの思念波にシンクロする。微かだが、レイの思念波を見つけた。
「北へ・・北へ向かって下さい!」
すぐにアントニオがトレーラーを発車する。左手に富士山を見ながら、トレーラーは北上する。
「この先は、本栖湖・・よね。」
亜美が誰にともなく訊いた。モニターにマップが映し出される。国道139号線をさらに進んでいく。精進湖が見えたところで、ルイが口を開く。
「止まって下さい!」
ルイはずっと目を閉じたまま、レイの思念波を追っていたのだった。
「消えてしまいました・・・ごめんなさい。」
ルイは額に汗を浮かべ、青い顔をしている。今にも倒れそうだった。
「ルイさん、大丈夫ですか?」
リサが、肩を抱くようにして寄り添う。
「ごめんなさい・・限界・・力を使い過ぎたみたい・・・。」
ルイは、弱々しい声でそう言うと、意識を失った。リサがすぐに抱え上げて寝室へ連れて行く。
この先、左へ曲がり国道358号線に入れば、甲府へ抜ける。そのまま直進すれば、西湖、河口湖方面へと向かうことになる。すぐにルイは回復しないだろう。この先、レイを追うのは難しい。
「くそっ!ここまで来て!」と、一樹は悔しがる。
「二手に分かれてみてはどうでしょう?」と、亜美が提案する。
寝室から、リサが戻って来た。
「ルイさんは眠っています。疲れたようです。・・あの・・これは、私の勘違いかもしれないんですが・・さっき、ルイさんを抱えた時、私の頭の中に、ルイさんの声が聞こえたんです・・。」
「いえ、それはきっとルイさんが薄れる意識の中で、あなたに思念波を送ったのよ・・それで?」
剣崎が訊いた。
「レイさんは深い森の中・・と聞こえたようなんです・・。」
リサは確信が持てないまま、自分が聞いた声を思い出しながら答えた。
「深い森?・・まさか・・。」
剣崎はそう言って窓の外を見た。
道路から右手、富士山に向かって、青木ヶ原の樹海が広がっている。
「まさか、この森の中に?・・。」
亜美も驚いて言う。

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7-4 チェイサー [マニピュレーター(シンクロ:同調)]

「カルロスは牧場の裏山に入っていったんだったな。」
一樹がアントニオに訊く。
「ええ、まちがいない、そうです。」
アントニオはそう返事をして、ドローンの映像を早送りにしてモニターに映し出した。
山道を登っていくカルロスの姿があった。ドローンは急上昇し、広く周辺の映像に切り替わり、カルロスの姿は確認できなくなった。
「止めて!少し戻して!」
映像を見ていたルイが叫ぶように言った。
カルロスが登った道の先に、映像が切り替わったところまで戻すと、ルイが目を閉じた。
何かの思念波とシンクロしようとしている。
「どうしたんですか?」
心配になってリサが訊ねる。
すると、ルイは目を開けて答えた。
「その大きな木が立っている辺りに、レイがいたようだわ。もう映ってはいないけれど、その木の映像から、とても強烈な思念波を感じるの‥。ドローンを見つけて、思念波を送ってきたのよ。」
すぐに、地図を広げて位置を確認した。
「行きましょう!」
亜美が言うと、一樹とリサも立ち上がった。
一樹と亜美とリサの3人は、カルロスが上った山道を登っていく。周囲が少し開けたところに、車が入れる林道があった。
「こんなところに抜け道があったのか!」
轍がついているところを見ると、ごく最近、車が通過したのは間違いない。
林道はそのまま牧場へ続いているようだった。少し進むと、人影があった。林道脇に立っている大杉にもたれて座っているように見えた。
「カルロスか?」
すぐに、一樹が走り寄る。
だが、そこに居たのは黒いスーツを身につけた見知らぬ男だった。意識がない。
「一樹、こっちにも・・。」
亜美が、林の中に倒れている男を見つけた。こちらも気を失っているようだった。
「おい!起きろ!おい!」
一樹が、杉の木にもたれかかっている男を強く揺さぶって起こした。男は目を開けたが定まらない。何かに精気を吸い取られたように見える。
「ダメだ!亜美、そっちはどうだ?」
「こっちも・・目を開けそうにないわ。」
一樹は周囲を見回す。カルロスがきっと近くにいるはずだ。
「ここです!カルロスさんが!」
リサが、林道の先、牧場の裏手に入場できるゲートの方から叫んだ。一樹と亜美が急いで向かう。
カルロスもさっきの男達と同様に、完全に意識を失っている。その上、肩口から出血しているようだった。
一樹は、大男のカルロスを何とか背負って、トレーラーまで戻って来た。カルロスをすぐにベッドに横にさせた。
「矢澤刑事の時と同じね・・。」
カルロスの様子を見て、剣崎が言った。
「じゃあ、これはマリアが?」
一樹が訊く。
「いえ・・そうじゃないわ。マリアなら、カルロスは死んでいたはず。おそらく、ケヴィン。」
「やっぱり、あそこに、レイが居たのか!」
一樹は悔しそうに言う。
「マリアも、ケヴィンたちが連れて行ったに違いないわ。」
剣崎が言うと、亜美が訊いた。
「マリアは大人しくついて行ったんでしょうか?」
「きっと、レイさんが拉致された時のように、気づかれぬうちに意識を奪ったんでしょう。」
と、剣崎が答える。
「あの男たちは?カルロスさんと闘って、意識を失ったわけじゃなさそうでしたけど。」
今度はリサが剣崎に訊く。
「もしかしたら・・・。」
今度はルイが口を開く。
皆がルイを見ると、少し戸惑った表情を見せて、ルイが続けた。
「もしかしたら、レイかもしれません。」
「どうして?レイさんにそんな力が・・。」と亜美が驚いて訊く。
「先程のドローンの映像にレイが残した思念波から感じた事だけど、レイの中に、恐ろしい能力が覚醒したのかもしれない。・・昔、感じた事のある思念波・・・そう、伊尾木の思念波に近い・・。」
ルイは冷静に答えた。
それを聞いて、剣崎は何かを決断した様子で口を開いた。
「もう、全て話すわ。」
剣崎を取り巻くように座り、皆、話を聞くことにした。
「まず・・倒れていた男はチェイサーの部下。」
「チェイサー?」と亜美。
「ええ、そう。コントロールできなくなったケヴィンが作り出したレヴェナントを壊滅させるため、F&F財団は、強い能力を持った者をチェイサー・・追跡者にして、行方を追っているの。」
剣崎は哀しげな顔で答える。
「私がアメリカを発った時から、ずっと彼らにマークされていた。マリアを保護することだけじゃなく、そこにケヴィンが現れると予測していたの。」
「じゃあ、私たちが捜査協力したことは、結果的に、F&F財団の思惑に沿っているということ?」
亜美が少し憤慨して、剣崎に訊く。
「まあ、結果的にそうなるわね・・。」
「なんてことだ!・・それなら、須藤夫妻のことも、IFF研究所のことも、伊尾木のことも、全て、剣崎さんには判っていたんじゃないんですか?」
亜美はさらに剣崎に詰め寄った。
「いいえ・・私は、知らなかった。本当よ。亜美さんたちの協力がなければ、ここまでは辿り着けなかった。私に判っているのは、全ての根源は、F&F財団にあるということ。チェイサーもレヴェナントも、サイキックの能力を極限に高めるためのもの。」
「サイキックの能力を極限まで高める?まさか・・じゃあ、あのプロジェクトは存在していたっていうことなの・・。」
ルイが怯えるように言った。
「あの計画って?」
亜美がルイに訊く。
「私が・・そう、私が居たイプシロン研究所には、幾つかの研究チームが作られていた。私がいたのは、もっとも初歩的な、特殊能力のメカニズムを解析するチームだった。私自身が実験台でもあったから、遺伝子や脳の構造・・いわゆる生理学的医学的な解析を行っていたわ。他にも、特殊能力を生み出すための薬品の開発・・これが、おそらく、レヴェナントを作り出したケヴィンのような被験者を使った研究チームに引き継がれたはず・・。他にも、動物を使った研究もあったわ。・・その中でも、トップシークレットとされたチームがあった。研究者の中では、エヴァ・プロジェクトというニックネームで噂されていた。」
「エヴァ・プロジェクト?」
苛立ちの表情を見せながら、一樹が訊く。
「真偽のほどは定かではなかった。でも、様々なチームから特に優れた研究者が突然姿を消すのよ。そして、最強のサイキックを創造するプロジェクトに抜擢されたという噂が流れた。」
「最強のサイキック?そんなもの、どうするつもりだ?」
一樹が誰にともなく吐き捨てるように訊く。
「世界を支配するためよ。」
剣崎が口を開く。

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