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3-27 決着 [アストラルコントロール]

石塚麗華が治療を受けている病院には、すでに山崎と林田が到着していた。そこへ、五十嵐が来た。
「怪我をしているから、短時間の面接は許可を取った。」
林田が言った。
石塚麗華はすでに治療を終え、ベッドに横になっていた。医師からは、傷は致命傷ではなく、止血程度で済んだことが伝えられた。
はじめに、林田と山崎が病室に入り、看護師が様子を見守る形で聴取が始まった。
ベッドの上の石塚麗華は、腕と体の2か所に包帯がまかれ点滴をしているという痛々しい姿だった。
「事件のことを教えてください。」と林田が訊くと、
「私は被害者なんです。彼がすべて仕組んだんです。私は彼に二人の行動を連絡しただけです。善三さんが殺された後、彼にもうやめようと言ったんです。でも聞き入れてもらえなくて・・共犯なんだと脅され仕方なく・・。」
と言って、石塚麗華は、ベッドに泣き崩れた。
「では二人を殺害しようと言い出したのは、三上だったと・・。貴女は脅されてやむなく手伝ったのだと・・」
林田が言うと、石塚麗華は小さくうなずいた。
そこへ、五十嵐が入ってきた。山崎は、五十嵐からの連絡のあとに判明したことを五十嵐に伝えていた。五十嵐は、詳細を頭に入れていた。
五十嵐は、病室に入り軽く挨拶をした。
「あなた、加茂氏の事務所で会った時、娘の加茂静香を名乗っていたわね。どういうことかしら?」
五十嵐が訊くと、石塚麗華は表情を強張らせ、そっぽを向いて返事をしなかった。
「私は被害者ですって言っているようだけど、そういうわけにはいかないわ。」
石塚麗華はちらりと五十嵐を見た。
「三上のスマホを復元したら、貴女が頻繁に連絡し指示していた記録が見つかったわ。あなたが今回の事件を仕組んだのよね。」
石塚麗華は返答しない。
「加茂正氏に近づき、肉体関係を持ったうえで、彼を脅迫したうえ、事務所の金を横領したことは結城氏の証言で判ってるのよ。・・そこでやめておけばまだ罪は軽く済んだのにね。」
五十嵐がそう言うと、石塚麗華は少し表情を変えた。
「どうしてこんなことをしたの?誰かにそそのかされたの?」
五十嵐が質問を変えた。
すると、急に石塚麗華が五十嵐を見た。
「判らない。どうしてこんなことになったのか・・判らないの。」
石塚麗華はそう言うと涙をぽろぽろと零した。
「判らないって・・あなたがやったことでしょ?」
「判らないの・・横領が見つかって、加茂善三さんに呼び出されて怒られたのは事実。でも、その後は・・何か・・誰かに言われたような・・いえ・・そうじゃない。記憶ははっきりしているの。でも、自分じゃない誰かがやっているような・・判らない・・どうして・・。」
石塚麗華はそう言うとベッドに突っ伏して泣いた。
石塚麗華は、治療を終え退院すると同時に逮捕された。
ほどなく、石塚麗華が業務上横領と脅迫、そして、殺人教唆の罪で逮捕された報道がされた。
石塚麗華の身辺を再度捜査したが、彼女が供述した「誰かに操られていた」という決定的な証拠は出なかった。精神鑑定もされたが、心神喪失という診断には至らなかった。
「彼女がすべての絵を描いたとは思えません。背後に誰かきっといるはずです。」
刑事課の中で五十嵐は山崎に食い下がっていた。
「しかし・・これだけ調べても、そういう証拠が何も出ないんじゃしょうがないだろ。加茂正氏に近づいて事務所に入るなんてことをやってのけた女なんだぞ。罪を逃れようとしてきょうじゅつしているにちがいない。」
武藤が窘めるように五十嵐に言う。
山崎は、五十嵐の主張に内心賛同しているのだが、武藤の主張も理解できた。
「五十嵐、少し様子を見よう。また、何か新たな証拠が出るかもしれない。」
山崎はそう言って五十嵐を落ち着かせる。
「このままだときっとまた事件が起きます。山崎さん、私だけでも継続捜査させてください。」
「ああ、わかった。気の済むようにしろ。だが、報告は怠るなよ。」
山崎はそう言って席を立った。

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