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2-14 ファミレス [アストラルコントロール]

二人はアパートからほど近いファミレスに入った。
客は少なかったので、一番奥の窓際の席へ座った。
メニューを広げ、ディナーセットを2つ注文した。ドリンクバーから、それぞれ飲み物をもって席に着いた。
次の一手が見えないままで、何をすればよいか、それぞれに考えを巡らせ、しばらく沈黙した。
仕事帰りの人や買い物帰りの主婦たち、塾にでも向かうのか急ぎ足の小学生などが外を歩いている。視線の先に風変わりな人物が歩いてきた。
大きなアフロヘアのかつら、縞模様のシャツと青い半ズボン、そして大きな靴を履いていた。後ろから、大きな看板を掲げた人がついてくる。どこかのパチンコ店の宣伝のためのコスプレだった。
「今時、ああいう宣伝もやっているんだな。」と零士が呟く。
「あれだけ変装していれば、だれだかわからないわね」と五十嵐が答える王に呟いた。
二人はぼんやり、その人物が行き過ぎるのを見ていた。
零士と五十嵐がほぼ同時にハッと立ち上がった。
「そうなんだ。きっとそうだ。」
零士が言うと、五十嵐も
「そう、きっとそうよ。それならあり得る。」
二人は顔を見合わせ、頷いた。二人の考えは同じだった。
「誰かが変装していた。赤い髪や派手な服装は正体をわからないようにしていたんだ。」
零士が言った。
「でも何のために?」と五十嵐。
「殺人を計画した人物なんだよ。殺人のために、架空の人物を作り上げた。目撃情報を集めて行けば、赤い髪の女にたどり着くだろう。だが、そんな女は存在しない。警察は、やっきになって赤い髪の女性を探す。だが見つからず時間ばかりが過ぎて行って、いずれ、迷宮入り。そういう筋書きなんじゃないかな。」
零士が解説する。
「やっぱり、贈収賄事件に関連した殺人?」と五十嵐が言う。
「いや、どうだろう。目撃情報の古いものはふた月も前だった。そのころは、贈収賄の噂さえなかったはずだ。そのころから殺害計画があったとは考えにくい。」
と零士が推理する。
「もう少し、桧山邸を調べてみる必要がありそうね。」
と五十嵐が言う。
「それなら俺に任せてくれ。もともと、贈収賄ネタを追っていたんだ。関係者が出入りしていないか調べてみよう。」
と零士が答えた。
「じゃあ、私はとりあえず、今までの報告を山崎さんに。赤い髪の女性について、他からも情報が出ているかもしれないわ。」
「ああ.それが良い。」
そこに、ディナーセットが運ばれてきたが、二人とも無言で食事をした。
零士は、赤い髪の女性がなぜ桧山を殺したのか、その理由を考えていた。突発的な殺人ではない。計画的に桧山に近づき、自殺に装って完全犯罪をやってのけた。服装と行動が一致しない。
五十嵐は、これまでの経緯を山崎に報告するにあたり、どう話せば理解してもらえるのかを考えていた。桧山は確かに赤い髪の女性とあの日会った。だが、その後、自宅に入った証拠は、わずかなかつらの毛しかない。それが、殺人の証拠になるとは言えない。だが、山崎は殺人事件という見立てをしているのは確かだ。報告してすんなりということはないだろうが、完全否定はされないだろう。
零士も五十嵐も明確な答えを見つけられないまま、食事を終えた。
「それじゃあ、また連絡する。」と零士が言って、桧山邸に向かった。
五十嵐は走り去る零士を見送った。
それから、署へ向かおうとしたが思いとどまり、山崎を呼び出した。
山崎が、近くの喫茶店を指定してきたので、先に行って待っていた。
「どうした、もう何か掴んだのか?」
山崎は、ドアを開けてすぐにマスターにコーヒーを注文して席に着くなり、そう言った。
五十嵐は、赤い髪の女性について、山崎に報告した。

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