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2-28 連鎖 [アストラルコントロール]

「その後、どうしたんですか?」と零士。
「彰吾が、事故に見せようと言い出し、僕と俊で彼女を運んで、尾根道から・・落としたんです。」
「警察や山岳救助隊には?」
「その後、道案内役がいないので、その場に留まり、救助を待ちました。彼女が滑落したと彰吾が説明して・・彼女の遺体が見つかった。僕たちは口を噤むしかなかったんです。」
そこまで聞いていた山崎が口を開いた。
「しかし、妙な話だな・・。いくら、滑落したと話しても通常なら事故かどうか見極めるために綿密に現場検証するはずだが・・。」
「ええ、そうなんです。知り合いの記者はそこに違和感を感じていた。遺体が発見され、驚くべき速さで滑落事故と判断された。現場検証もほとんどされていなかったそうです。」
零士は、山崎に向かって言った。
「知り合いの記者は丹念に現場を調べて、事故現場の近くの岩陰に、血痕が見つかり、事故ではないと確信を持った。そのことを地元の警察に知らせたものの、取り合ってもらえなかったそうです。」
「まあ、血痕だけでは・・」と武藤が言う。
「知り合いの記者は、その前に、遺体の損傷状態に違和感があったそうなんです。滑落すれば、あちこちに擦り傷ができるし、衣服も破れる。だが、彼女の遺体は比較的綺麗だった。滑落した現場にも、転がり落ちた痕跡がなかった。それで投げ落とされたのではないかと考えた。」
零士が説明をつづけた。
「彼は、事故の状況を調べるために大学にも行ったそうですが、学校も学生のプライバシーにかかわることだと言って拒否したそうです。事故について調べようとすると何か強い抵抗にあう。これは事故ではなく事件だとますます確信を持った。」
零士が説明すると、山崎が言った。
「伊部信三から圧力がかかっていたということか?」
山崎の顔が曇っている
「もう20年前のことですから、それを確かめることもできませんが・・。」
零士も残念そうに答えた。
「君が定期的に行くコンビニに、有栖川というバイト店員がいるのを知っていますね。」
零士は、雄一郎に訊いた。雄一郎の顔色が変わった。
「今回の事件は、君が彼女の存在を知ったことから始まったんだろう?」
零士が訊く。雄一郎は顔を伏せる。
「彼女は、亡くなった有栖川レミさんの姪御さんだね。大学当時のレミさんによく似ていた。」
零士はそういって、大学時代の登山サークルの写真と、バイト店員の有栖川の写真を並べた。
「20年、沈黙を守ってきた君に、あの子の存在が火をつけた。彼女のための復讐計画だ。」
雄一郎の顔が引きつっている。
「だが、判らなかったのは、どうして、君自身の父親を殺害する必要があったのか。復讐するのであれば、伊部彰吾だけで良かったんじゃないか?」
零士にそう言われて、雄一郎は顔を上げた。
「親父は・・親父は、あの事件の秘密を守るためと言って、僕を閉じ込めた挙句、伊部や遠山を脅迫していたんだ。親父たちの力関係が引き起こした事件なのに、自分だけ蚊帳の外にいて、それをネタに甘い汁を吸って・・親父の全てが許せなかった。」
雄一郎の目には憎悪が浮かんでいた。
「贈収賄に関する情報をリークしたのも君かい?」
山崎が訊いた。
「ええそうです。でも警察の動きは鈍かった。何度も何度も、メールを送って贈収賄の証拠も送り付けたのに、一向に動く気配がない。やはり、国会議員であることで、あの時と同じように圧力がかかっているんだと・・それなら、自分で復讐するしかないでしょう。」
雄一郎の言葉に、山崎は反論できなかった。
山崎は、捜査2課が贈収賄事件に着手すると決断したのは、桧山氏が死亡したタイミングだった。それまで内部では何度か浮上したことはあったが、そのたびに、署長の判断で未着手となっていたのを知っていた。彼の指摘は間違いないと感じたのだ。
「赤い髪の女性がたびたびコンビニに行き、桧山氏が亡くなった日にも、ドライブレコーダーに映っていた。あれは、君だね。」
零士が訊いた。雄一郎は頷いた。

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