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2-29 雄一郎の自白 [アストラルコントロール]

「軟禁されていたのにどうして抜け出せた?」
二人のやり取りを聞いていた林田が唐突に訊いた。
「抜け穴があるんですよ。そうだよね。」
零士が雄一郎に言った。
雄一郎は、「それもわかっているんですか?」と驚いた。
「ああ、赤い髪の女性が、桧山邸周辺とコンビニで定期的に目撃されていた。僕も、この家の周辺を回っていた時、人影を見た。きっとどこかに抜け穴があって、君がそこから外に出ているんだと確認を持った。おそらく、庭にある井戸のようなもの。あそことこの部屋をつなぐ・・」
零士はそういって部屋の中を見回し、押し入れを開いた。
押し入れに刃物が置かれていなくて、床には扉のようなものがついていた。それを上げると、床下に続く穴があった。
「ここから外へ出ていた。それも、赤い髪の女性に変装した状態で・・。」
観念した雄一郎は、押し入れの上の棚の奥から、赤い髪のかつらとドレス、ハイヒールなどが入った袋をだした。
「なぜ、変装したの?目立つ格好をして捜査をかく乱するため?」と五十嵐が訊く。
雄一郎は答えなかった。
「コンビニ店員が気味悪がっていたよ。有栖川さんは、そのせいでしばらくシフトに入れないこともあったようだ。あんな格好をしなくてもよかったんじゃないか?」
零士も訊いたが、雄一郎は答えなかった。
「父親を殺した時、自殺に見せかけたのは、伊部彰吾を殺害するまでの時間稼ぎだったのかい?」
雄一郎は首を横に振り否定した。
「あの日、コンビニに女装していったのを親父に見つかった。親父は女装している僕を遠目で息子と判ったようだった。家に連れて帰られ、ひどく罵られ、殴られた。あいつ、あの事故を隠ぺいすることで利権を得ているハイエナだ。いつか殺してやろうと思っていた。チャンスだった。」
「自殺に見せかけたのは、やはり、贈収賄事件の捜査のため?」
五十嵐が訊いた。
「ええ、そうです。贈収賄疑惑の当事者が自殺となれば、マスコミも動き、警察も動かざるを得ないでしょう。・・でも、なかなか捜査は始まらない・・警察にはがっかりしました。」
雄一郎が答える。
「伊部彰吾の殺害は?」と武藤が訊いた。
「あいつは、僕の親父が死んだと聞いて、伊部信三と一緒にここへ来た。伊部信三は、親父が死んだことで今後脅迫されることはないと安堵した様子だった。だが、僕が生きている。伊部信三は、彰吾に僕を殺すよう命じたんです。僕が死ねば、あの事件は闇の中。あいつがこの部屋に来た時、僕は部屋から抜け出した。身を隠すため、公園のあの茂みを使ったんです。」
雄一郎はちらりと零士を見た。
「あそこに人が潜んでいるのを見たんです。あそこにいたのは、射場さんですよね。」
雄一郎が訊く。伊部信三の写真を撮った時、画面の奥に雄一郎が映りこんでいた。その時、雄一郎は、零士が潜んでいることを知っていたことになる。外からは簡単に見つかる場所ではないと考えていた。不思議だった。
「彰吾は僕を探していました。僕は、あの場所に誘い込むことにして、彰吾を殺しました。ナイフは彰吾が持っていました。それを奪って、首を刺しました。」
「もう良いだろう。あとは、署で詳しく聞かせてもらう。」
山崎はそういって、雄一郎を逮捕した。
離れから出てくると、泣きはらした目をした雄一郎の母親がいた。
「母親は全く関係ありませんから。」
雄一郎が山崎に言った。山崎は、何も言わず、小さく頭を下げて母親の前を通り過ぎた。
雄一郎は、武藤とや林田が署に連行した。入れ替わりに、鑑識班が到着して離れの部屋を調べ始めた。
「一応、一件落着ね。」
五十嵐が零士に言った。
「ああ・・確かに、今回の事件の全体像は判った。でも、これから、山での事件、伊部信三も含む贈収賄事件や警察などへの圧力と言ったすべてを解明し罰するには相当手間がかかるだろうな。どこまで、警察が本気で取り掛かるか・・あまり期待はしていないが・・。」
零士はそういって空を見上げた。

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