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2-17 深夜の訪問 [アストラルコントロール]

零士は持ち帰ったごみの中の紙片をテーブルに広げた。コンビニのレシートは日付順に並べてみた。これはきっと、軟禁されているはずの息子の行動に違いない。ほぼ1か月前のものから週2回程度、買い物をしている。買ったものはたばこで、銘柄はマールボロだった。ただ、目撃された日とは一致していない。それに、コンビニ店員も、それほど頻繁に赤い髪の女性を目撃していない。とすれば、変装せずに買い物をしている碑があるということになる。
零士の考えは甘かった。
軟禁されている息子が、外に出るときは変装せざるを得ないのではないかと考えていたが、どうやらそういうことではなさそうだった。
「やはり別人なのか?」
夜も更けてきたので、とりあえず休もうかと思ったところで、スマホが鳴った。
「零士さん?今、どこ?」
五十嵐だった。
「アパートに戻ったんだが・・。」
「そう。桧山の息子のことでわかったことがあるからお話ししようと思ったんだけど。」
「もう、遅いから、明日にしよう。」
「そう?」
五十嵐が少し残念そうな返事をした。
「まあ、君が構わないなら良いけど・・。」
零士はそういって見たものの、これから着替えて出て行くのはちょっと面倒だなと感じていた。
「いいわ、これから部屋に行くわ。」
五十嵐はそういって電話を切った。
零士はもう休むつもりだったが、彼女が来るなら着替えなければと思いながら立ち上がると、インターホンが鳴った。
「ちょっと待って!」という間もなく、ドアを開けて五十嵐が入ってきた。
零士は、就寝時にはパンツ一丁になる習慣がある。思いっきり、五十嵐に裸体を見られてしまった。ドアに鍵をかけ忘れていたことを後悔した。
「あら・・。」
五十嵐は恥じらいを見せることなく、零士を直視していた。慌てて、短パンとTシャツを着た。
「勘弁してくれよ。」
「気にしないで。裸なんて慣れてるから。」
彼女は刑事だった。事件現場では、もっと悲惨な状態の遺体を見ることもあるに違いない。普通の人間の裸体などなんとも思わないのだろう。
零士は、五十嵐を部屋の中に入れ、自分は、コーヒーでも淹れようとキッチンに立った。
「それで、何かわかったのか?」
「ええ、そうね・・その・・。」
零士が訊くと、五十嵐の返答がおかしい。近づいてみると、五十嵐はリビングのソファに座り込んでうとうとしている。
「おいおい、何だよ。話があるから来たんじゃないのか?」
そう呼びかけるが、かなり疲れているのか、そのまま、ソファに座ったまま眠ってしまった。
そのままにしておくのも忍びなくて、零士は、五十嵐を抱え上げて、ベッドに運んだ。
零士は仕方なく、ソファで眠ることになった。
不意に、夢を見た。
大きな屋敷、桧山邸の中だった。時計は午前1時を回っている。
辺りはしんと静まり返っていたが、庭のほうでごぞごそと音がした。零士はスーッと庭に出た。広い庭。半月の明かりでなんとか様子が見える。
塀際にはいくつも大木がある。その陰から男性が現れた。黒いTシャツとジーンズ姿で髪は短く切っている。その男性は周囲に気を配りながら、塀を乗り越えて外に出て行った。
「どこから出てきた?」
零士は、先ほどまで男がいたあたりに行ってみた。木々の間に井戸があった。本物の井戸ではなく、90㎝四方の庭のオブジェのようなものらしかった。竹で蓋がされている。零士は、それを持ち上げることはできない。その中がどうなっているのか見ることはできなかった。だが、おそらく男はここから出てきたに違いない。
「ここが離れと繋がっているのか?」
そこで夢が終わった。

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