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2-25 藪の中 [アストラルコントロール]

現場に着くと、公園の入り口に規制線が張られ始めていて、多数の警官が警戒に当たっていた。
五十嵐は現場のバッジを見せて中に入った。
「遺体は、伊部彰吾氏でした。免許証で確認しました。今、現場の保全をしていますが、遺体が見つかった藪の中には、以前から誰かが入り込んでいたようで、別の捜査員が男を目撃したとの報告もありました。遺留品を調べていますが、現場の状況を知る人物の犯行の可能性が高いと思われます。」
先に駆けつけていた1課の林田が五十嵐に報告した。
あの藪の中には、零士が潜んでいたのを五十嵐も知っている。
一度、五十嵐自身も入ったことがある。遺留品を調べれば、零士や自分がいたことも判るだろう。被疑者となる可能性は容易に想像できた。
そこに、山崎と武藤も駆け付けた。二人は現場を一通り確認した後、林田から報告を受けた。
「伊部氏の死因は?」と山崎が訊く。
「首筋をナイフで切られたことが要因です。ただ、ナイフは伊部氏の手に握られていましたから、自殺の可能性もあると思います。」
と、林田が答えた。
「自殺?こんなところで深夜に。伊部彰吾に自殺する明確な理由があれば別だが・・。」
と山崎が反応した。
「国会議員秘書で、ゆくゆくは父親の地盤を継いで自身も国会議員になる身分だぞ。自殺する理由なんてないだろう?」と武藤も続けた。
「しかし、首を切ったナイフは彼の所持品ですし、状況からは他殺を疑うようなことは・・。」と林田が反論した。
「ここに誰かが潜んでいたという情報もあるんだろう?」
山崎が訊いた。
それを聞いて、五十嵐が口を開いた。
「ここに潜んでいたのは、射場零士さんです。私も一度ここに入ったことがあります。」
皆、五十嵐の言葉に意味が分からないという反応をした。
「先日の、桧山氏の事件を調べるため、射場さんに協力をお願いしていたんです。」
山崎は頷いた。
武藤はむっとした表情を浮かべて「どうしてまだ調べてるんだ!」と言った。
「まあ、武藤、良いんだ。俺が指示した。あの事件は単なる自殺とは思えなくてな、同じころ贈収賄事件の捜査が始まって、桧山邸に我々が出入りするのを上から止められたんで、五十嵐に隠密で捜査を続けさせていたんだ。」
武藤はまだ納得いかない様子だった。
「桧山氏と伊部彰吾氏の死はきっとつながっています。まだ、確証は得られていませんが、犯人はあの屋敷の中にいます。」
五十嵐が言った。
「息子の雄一郎・・か。」と山崎。五十嵐が頷いた。
「桧山氏の事件捜査では、息子は離れの部屋に軟禁状態のため、外には出られないはずですが。」
と、林田が言った。
「それも含めて、今回の事件の大きな筋立てはできています。ただ、全て推論に過ぎません。おそらく、証拠になるものは、あの離れの部屋の中。そして、すべてをやった雄一郎本人に話を聞く必要があります。」
「わかった。だが、一度で、確実に、自供を引き出さなければならない。どうだ。」
と山崎は五十嵐に訊く。
「判りました。そのために、射場さんに同席してもらっていいでしょうか?」
五十嵐が山崎に訊く。林田も武藤も、反対した。
「皆の考えはわかった。ここの現場検証と伊部彰吾の死因が特定された段階で、皆と一緒に、雄一郎から話を聞く。射場にも同席してもらうのを特別に許可しよう。」
山崎の決定で、みないったん現場を離れた。
公園の外で、五十嵐を待っていた零士のもとへ、五十嵐が帰ってきた。
「雄一郎氏から事情聴取することが決まったわ。零士さんも同席してね。」
五十嵐は、本田幸子の自供を引き出した射場をはっきりと覚えている。再び、彼が、雄一郎の自供を引き出してくれる。そう信じていた。

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