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2-26 足りないもの [アストラルコントロール]

「判った。だが、まだ、足りないんだ。20年前の事故の真相、その後の、3人の男の関係。それに贈収賄事件の真実。伊部彰吾を殺害したのは雄一郎に違いないが、それを裏付ける証拠がないんだ。雄一郎がすんなり自供するとは思えない。」
零士の意外な答えに五十嵐は戸惑った。
「3日ほど時間が欲しい。その間に、足りないピースを集める。それがないと、彼の自供は引き出せない。」
零士はそう言うと、現場を後にした。
「なんなの?」
五十嵐は半ば呆れて呟いた。
それから3日が経過した。途中、五十嵐は何度か零士のスマホに電話をかけたが留守番サービスにつながるだけだった。
「すまん。ようやく、繋がったよ。」
零士から電話があった。繋がったのは電話なの?それとも事件の真相なの?と訊き返したかったが止めた。
「じゃあ、事情聴取に。」
五十嵐はそういって電話を切ると、山崎に事情聴取の許可を確認した。
「良いだろう。俺たちも同席する。」
すぐに、五十嵐は、山崎と武藤、林田とともに、桧山邸に向かった。
門の前には、零士が待っていた。
山崎の顔を見て、零士はしかめっ面になった。過去の因縁がふつふつと浮かんできてしまって、感情が顔に出てしまった。
五十嵐はそんな様子を無視するように零士に向かって言った。
「大丈夫なのね?」
「ああ、すべてのピースは揃った。さあ、行こう。」
インターホンを押すとお手伝いさんが出てきた。五十嵐が雄一郎の事情聴取に来たことを告げると、お手伝いさんは、静かに家の中へ皆を入れた。
「離れの鍵を開けてください。雄一郎氏に事情聴取します。」
嫌とは言わせない物言いで五十嵐が迫る。
奥から、桧山の奥様が姿を見せた。
「承知しました。すぐに。」
奥様の反応は何か諦めのような、それと安堵感のようなものを感じさせた。
離れのドアの鍵が開けられた。そして、ドアを開く。
部屋の中には、椅子に座った雄一郎の姿があった。狭い部屋の中に、大勢の人が入ったためか、息苦しかった。
「先日、伊部彰吾さんが亡くなったわ。」
五十嵐が切り出した。雄一郎は表情一つ変えなかった。
「貴方が殺したのね。」
五十嵐が言うが、雄一郎氏は無表情のままだった。五十嵐はさらに続ける。
「父親を自殺に見せかけて殺したのもあなたね。」
雄一郎は全く表情を変えなかった。
後ろで聞いていた山崎は、黙秘を続ける雄一郎を見ていて、無表情こそ自白と同じだと感じていた。
「おい、大丈夫か?」
武藤が小声で五十嵐に言う。五十嵐がちらりと零士を見た。
零士が一歩前に出て口を開く。
「先日、遠山俊さんと連絡が取れました。彼が今どうしているか知っていますか?」
雄一郎の表情が一瞬変わった。
「彼はアメリカで弁護士をやっているそうです。結婚もして、幸せそうです。ああ、そうそう。彼に、伊部彰吾さんが殺されたことを伝えたら、ずいぶんと驚いていました。それから、君のことを話したんだが、遠山さんは君のことを知らないようでした。一緒に登山サークルにいたのに、覚えていないらしいです。」
雄一郎が膝の上に置いた手をぎゅっと握りしめた。
「そんなはずは・・そんなはずはない!」
雄一郎はそういって机を握りこぶしで叩いた。明らかに怒りと憎悪が感じられた。

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