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2-2 空港へ [マニピュレーター(シンクロ:同調)]

「両親を失った事故。詳しい事は判らない。自宅で起きた大きな爆発事故で、奇跡的に彼女だけが助かった。両親の遺体はほとんど原形をとどめていなかったらしいわ。」
「7年前の大きな爆発事故・・・。そんな事故があったかな?」
隣で地図を広げていた一樹が呟く。
亜美はすぐにネットで調べ始めた。だが、それに該当するような事故は見つからなかった。
「彼女が物心ついたら両親のことが気になるはず。その時のために作られた話じゃないか?」
一樹は亜美に言う。亜美は剣崎の顔を見た。
「確かに、事故の写真や記録は見た事はないわ。FBIから提供された資料にそう書かれていただけ。」
剣崎が答える。
「彼女の特殊な能力に気付いた誰かが仕組んだのかもしれないですね。」
話を聞いていたレイが言う。
二人の会話を聞いていた亜美は、ふいにある考えが浮かんだ。だが、自分一人でできるか確信が持てなかった。
トレーラーは空港に向かうため、知多道路に入った。低い山並みの向こうに伊勢湾が見える。常滑の町に入った時、亜美は決断した。
「駅へ向かってください。」
「どうした、亜美?」
一樹が亜美に訊く。
「マリアが両親を失った事故について少し調べてみたいんです。」
亜美の答えに剣崎が少し戸惑って訊く。
「それを調べてどうするの?」
「判りません。でも、マリアが日本に来た目的と関係があるはずです。マリアの日本名はなんて言うんですか?」
亜美が剣崎に訊く。剣崎は、FBIから渡された資料を開く。
「カツマタ マリア・・ね。」
「事故が起きたという場所は?」
「それは記されてないわ。両親の名も伏せられたままになってる。」
剣崎が答えると、
「何だか、怪しい匂いがするな。」と一樹が言う。
剣崎も、「調べてみる価値はありそうね。」と答える。
「このトレーラーでも、調べられるんじゃない?」
と剣崎が言うと、
「FBIの資料で伏せられているということは、そんなに簡単には判らないと思うんです。一度、署に戻って、父・・いえ、署長にも相談してみようと思います。」
不意に、紀藤署長が出てきて、一樹は驚く。これまでの捜査で、そんなことを亜美が行った事はなかった。むしろ、署長の意見を敢えて聞かないようにしていたくらいだった。
「亜美?どうした?」
一樹が訊くが、亜美は答えず、剣崎の顔を見つめる。何か考えがあるようだと剣崎は判断して、亜美を常滑駅で降ろすことにした。
「レイさん、無理しないでね。一樹、レイさんを守ってね。」
亜美はそう言うと、常滑駅の改札に入って行った。

トレーラーは空港に入った。
国際便も就航している空港は24時間動いている。剣崎たちが到着したのは、昼前だった。国内線ターミナルは混雑していた。
「自家用ジェットは、一番はずれの格納庫前を使うはず。そっちに着けて。」
剣崎が言うと、アントニオはトレーラーを空港のはずれに向って走らせる。一番近いパーキングエリアに入ると、剣崎たちはすぐに現場に向かう。
部外者立ち入り禁止の看板のあるゲートに立つと、警備員が制止した。
「警視庁から捜査のために来ました。ご協力ください。」
一樹が警察バッジを見せて警備員に言うと、警備員は慌てて本部に連絡を取り、承諾を得てから皆を中に入れた。
マリアが乗ってきたと思われる自家用ジェットが、格納庫の中にあった。
「あれね。」
自家用ジェットに近付くと、慌てて整備士がそれを止める。
「なんですか!部外者立ち入り禁止です!」
一樹が慌てて警察バッジを見せて説明する。
「私有物ですから、警察と言えども、正当な理由がなければ、捜査はお断りします。」
一樹の説明にも耳を貸さず拒否した。
一樹も、「まさか、この整備士にマリアという女の子がこのジェットに乗って密入国したと説明したところで納得しないだろう」と思い、細かい説明は思いとどまった。
後ろで、レイが剣崎に思念波を送った。
『どうしたの?』
剣崎が思念波で返すと、レイは、その整備士をじっと見つめている。
『彼に何か?』
更に剣崎が訊くと、レイは
『彼から特別な思念波を感じる。彼の思念波じゃない、誰か違う人の思念波・・。』
『まさか・・。』
剣崎が整備士を見る。
外見上は、特に異様なところはない。表情も至って普通だった。
『きっとそう。特別な思念波のエネルギーがまだ少し残っている。』
『捉えられる?』
『やってみます。』
二人は、思念波をシンクロさせて会話をしている。
一樹には判らない。
レイは、剣崎の後ろに身を隠したまま、両方の手のひらを合わせて、ゆっくり目を閉じる。
整備士の中にまだ残っているマリアの思念波を捉えようとする。
独特な思念波だった。
ほんの少し残存している程度のはずだが、整備士の思念波の中に、網目の様に入り込んでいる。それ自体はもう何の力も持っていないが、確かに存在は感じることができた。
レイはいろんな人間の思念波を捉えてきたが、こんな思念波は初めてだった。その人の持つ思念波が経糸だとすれば横糸の様に絡みながら、形を変えていく。そんなものの様に感じた。
レイは、整備士の思念波にシンクロした時、自分の意識が彼の中に引きずり込まれるように感じて、驚いて、意識を遮断した。
『間違いありません。この人はマリアに接触しています。』
『そう、判ったわ。』
剣崎はレイにそう答えると、その整備士に近付いた。
「ご迷惑をおかけしました。So,Sorry!」
剣崎はそう言うと、すっと右手を差し出し、整備士と握手をした。
手を握った瞬間、剣崎の頭の中に、強い映像が広がった。
自家用ジェットの中、マリアと思しき少女がシートに隠れている。それを整備士が見つける。その後、映像は様々な光が飛び交い、カオスのような状態になったが、再び、映像が戻ると、大きなコンテナのドアが開き、少女が走り去っていく。その向こうには、タクシー乗り場が見えていた。
剣崎は整備士から手を放す。そして、一樹に言った。
「タクシー乗り場に行きましょう。」
剣崎と一樹、レイは、空港玄関の前にあるタクシー乗り場へ向かう。
「間違いなかったわ。あの整備士がマリアを連れ出し、タクシー乗り場の前で別れていた。」
一樹は、レイと剣崎の思念波の会話を知らない。だが、剣崎の言葉で、二人が整備士からマリアの情報を引き出したことは理解できた。
マリアの痕跡を掴んだことは大きな一歩となった。

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